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個人再生徹底活用マニュアル

千川健一・坂本隆志
共著
個人再生徹底活用
マニュアル
(2005年法改正に
完全対応)

自己破産個人版民事再生のすべてがわかる本

千川健一の本
自己破産
個人版民事再生
のすべてがわかる本

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第五部 個人再生              03−3589−4905

6 個人再生Q&A

    (回答末尾→Q&Aindex へ)


Q−1 住宅ローンを抱えて、その返済のために多重債務となってしまいました。破産すると折角購入した家を手放さな ければならないと聞きました。破産という方法以外に、とりうる救済方法はないのでしょうか。

Aー1 破産の場合、所有財産はすべて処分清算し、これを債権者の配当に充てることを原則としていますので、持ち家を手放さなければならないのが通常です。
ただ、その財産に住宅ローンなどの抵当権が設定されて余剰価値がない場合には破産手続の中で不動産が処分されないこともありますが、抵当権者に帰する資産の為、最終的には処分されてしまいます。

従来、個人が住宅ローンその他の債務を抱えて返済が不可能となった場合には、任意整理あるいは調停という方法により多重債務の解決を図っていました。
しかし、いずれの方法も最低元金は返済する解決方法ですから、住宅ローンを抱えたままではかなり苦しい選択肢でした。

それゆえ、破産に至らざるを得ないというケースが多々ありましたが、個人の生活の基盤である住宅を手放さなくてよいように、2000年4月に施行された民事再生法の個人救済制度版として、同法再生計画案に住宅資金について特別に条項を定めれば、住宅を守ることができるようになりました。したがって、現在は住宅を手放さずとも、継続した収入があれば、住宅ローン以外の債務について大幅な減免を受けることにより、債務者の再生が可能となりました。


Qー2 個人再生手続には二通りあると聞きました。どのようなものですか?

Aー2 民事再生手続の個人版として「小規模個人再生手続」があり、その特則として、主にサラリーマン等の給与所得者を対象とする「給与所得者等再生手続」があります。
さらに、民事再生法の改正に伴い住宅ローン債務者救済を目的とした「住宅資金貸付債権に関する特則」が設けられ、民事再生手続であれば、何れもこの特則を利用して、計画案に「住宅資金特別条項」を定めることにより、住宅を手放さずに債務整理する道が拓かれました。
この特則は、住宅ローンについて支払いが滞り、一括支払請求を受けているような場合でも(このような状況であれば、通常は競売に移行します。)、住宅ローンについて再度期限の利益を付与したり(競売は債務が遅延していることを前提にできますから、期限が設けられれば金融機関は競売できなくなります。)、リスケジューリングを行うことで、以降の返済を可能にするためのものです。


Qー3 小規模個人再生と給与所得者等再生の違いを簡単に教えてください。

Aー3 共通する条件としては、将来継続的な収入のあること、さらに住宅ローン以外の債務総額が5000万円未満であることです。
給与所得者再生手続では、将来継続的な収入が見込まれることに加え、収入が定期的かつ安定していることが申立の要件となります。
一般的には、小規模再生の対象者は個人事業者、給与所得者再生の対象者はサラリーマンを予定していると言えます。
また、再生計画による最低弁済額については、総資産額が上回らない限り、債務額3000万円までは双方共に債務額の5分の1以上(100万円未満の場合は100万円)、3000〜5000万円までは10分の1以上ですが、給与所得者については、さらに可処分所得の2年分以上という要件が加重されています。
こうした要件は、給与所得者再生の方が認可のために債権者の書面決議が必要とされず、再生計画案の不認可というリスクが少ない分、より厳しくなっています


Q−4 小規模個人再生は,自営業者等でなければ利用できないのでしょうか?

A−4 そんなことはありません。確かに,小規模個人再生は主に個人事業者等を想定して作られた制度ですが,給与所得者等再生手続を利用できるサラリーマンなどの方でも,小規模個人再生を利用することはできます。
なお,給与所得者等再生では,可処分所得の2年分に相当する金額が最低弁済額になりますが,可処分所得の金額は,収入から差し引くことのできる生活費が生活保護の基準をもとにして定められている関係から,実際に計算してみるととんでもない高額になってしまうことがあります(特に,収入が高い方,独身の方,夫婦共働きで子供のいない方,高額の住宅ローンを支払われている方などについては,可処分所得が驚くほど高額になってしまう場合があります)。

そこで,給与所得者等再生では現実的な再生計画を立てるのが難しい場合には,サラリーマンであっても敢えて小規模個人再生を申し立てることにより,最低弁済額を下げるといった方法がよく採られます。
特に,最近は小規模個人再生に対する業者のスタンスがかなり明確になってきたので,債権者の顔ぶれ等から考察して,小規模個人再生でも再生計画案が可決される見込みが十分にある場合には,敢えて高額の弁済を要する給与所得者等再生を利用する必要性は希薄になっています。


Q−5 小規模個人再生手続の再生計画案では,法律上どのような要件を満たす必要がありますか。

A−5 小規模個人再生手続の再生計画案では,以下のような要件を満たす必要があります。

(1) 再生計画に基づく弁済期間は,原則として3年間とし,この期間中は3ヶ月に一度以上の割合による分割弁済をすること(ただし,特別の事情がある場合には3年を超え5年を超えない期間の弁済期間を定めることができます)。

※1 家計状況に余裕がある場合でも,3年を下回る期間の弁済期間を定めることはできません。これは,3年未満の弁済期間を認めると,債権者から不当な圧力を受け,短期間での弁済を強要されるおそれがあるとの配慮によるものです。
※2 分割弁済の回数については,弁済に必要な銀行への振込手数料を節約し,また毎月の収支にばらつきが生じた場合の調整を容易にするという観点から,実際には3ヶ月に1回まとめて返済するという再生計画案を作成するのが通常です。

一方,任意整理であれば毎月支払うという条件でなければ債権者が和解に応じてくれないのが通常であるため,この点は個人再生の大きなメリットといえます。

(2) 再生計画に基づく弁済総額は,破産の場合の配当額を上回るものであること(法174条2項4号。これを「清算価値の保障」といいます)。

例えば,現金や預貯金,保険解約返戻金,退職金支給見込額,自動車などの資産の総額が150万円ある場合には,総債務額が500万円で通常の最低弁済額が100万円である場合でも,清算価値の金額である150万円以上を分割返済する再生計画案を作成しなければ裁判所の認可が得られないことになります。

なお,ここで勘違いしないで頂きたいのは,破産のように「現有資産を処分しなければならない」ということではないことです。

例えば,自動車を所有していると,破産の場合には,それを管財人が処分換価して配当するのが原則になりますが,個人再生の場合には,その自動車の資産価値を上回る金額を債権者に3年ないし5年で分割返済すればよく,それが可能であればその自動車を手放す必要はないということになります。

もっとも,破産手続においても,破産管財人にその自動車の時価相当額を納付すれば自動車を手放さないでよいという取り扱いが実務上定着していますが,その場合の時価相当額の納付は原則として一括で行う必要があり,資金繰りという面では個人再生の方により大きなメリットがあります。

※3 住宅ローン条項付き個人再生を申し立てる場合,不動産の時価が住宅ローンの残債務額(被担保債務額)を下回るとき(いわゆる「オーバーローン状態」のとき)には特に清算価値の問題は生じませんが,不動産を購入するときに頭金をたくさん支払った方,あるいは住宅ローンを長年支払い続け,ローン残債務額が少ない方などについては,不動産の時価から住宅ローンの残債務額を差し引いた金額が清算価値(資産)とみなされ,再生計画においてそれ以上の金額を支払わなければならず,場合によっては清算価値が高すぎて住宅ローン条項付き個人再生が事実上利用不可能になってしまうケースもあります。

(3) 弁済総額は,原則として再生債権総額(住宅資金特別条項を定める債権以外の債務の合計額)の5分の1以上の額であること,ただし,再生債権総額が100万円以上500万円以下の場合は,最低弁済額は100万円であり,再生債権総額が1500万円以上の場合は,最低弁済額は300万円となります。なお、平成17年から,個人再生の利用限度額は5,000万円に引き上げられ,再生債権総額が3,000万円を超える場合の最低弁済額は,再生債権総額の10分の1に相当する金額となりました。

なお,実際にあるとはまず考えられませんが,再生債権総額が100万円未満の場合は,再生債権総額が最低弁済額となります。

※ マスコミ報道などには,一部債務額が1500万円以上の場合には300万円以上の金額を支払う必要はない,というような趣旨の説明をするものがありますが,このような理解は正確ではありません。

小規模個人再生では債権者の反対決議がありますので,弁済総額が300万円の再生計画案を提出しても,債権者がその再生計画案に納得しなければ否決されることもあることに注意してください。

(4) 債権者平等原則に反していないこと(174条2項1号)。

各債権者に対する弁済率は同率でなければならず,例えば親族や知人,勤務先などである債権者だけ弁済率を高くしたり,逆に厳しい取立をされ恨みのある債権者だけ弁済率を低くしたりする,といったことは許されない,ということです。

(5) 計画遂行の見込みがあること(174条2項2号)。

これは,再生債務者の収入や支出,資産状況などから判断されます。
なお,最近の実務では,再生手続の期間中,再生債務者に1ヶ月あたりの弁済予定額を銀行口座に毎月入金させ,その様子を見て再生計画遂行の見込みがあるかどうかを判断する裁判所が多くなってきています。

(6) 決議が不正の方法によって成立したものではないこと(174条2項3号)

(7) 書面決議が可決したこと(231条1項)

なお,通常の民事再生手続では,再生計画案は債権者集会における議決権者の過半数及び再生債権額の2分の1以上の同意が必要とされていますが,小規模個人再生では手続の簡易化を図るため書面決議とされ,反対票が債権者数の2分の1または再生債権額の過半数に達しなければ可決されるため,通常の民事再生手続に比べ可決はされやすくなっています。


Q−6 小規模個人再生の書面決議では,債権者は概ねどのような場合に反対してくるのでしょうか。

A−6 それは債権者の考え方次第・・・と言いたいところですが,最近は,業者については賛成・反対の傾向がかなり明確に分かれてきています。その主なものを挙げると,以下のとおりになります。

(1) 消費者金融・信販系・銀行等

ほとんど反対してきません。ただし,債権額が1500万円以上で,弁済率が20%を下回るような再生計画案だと,反対してくる業者もあるようです。

(2) 保証会社,信用保証協会等

反対する傾向が強いです。

(3) 国民生活金融公庫その他の政府系金融機関,信用金庫等

こちらも反対してくる可能性があるので注意が必要です。

したがって,債権者の大半が消費者金融・信販系・銀行などである事案では,小規模個人再生でも否決される見込みはほとんどない一方,保証協会等が大口の債権者になっている事案では,小規模個人再生を認可させることは非常に難しくなります。

なお,個人の債権者が再生計画案に反対してくるかどうかは,再生債務者との人間関係の問題ですので,個人再生によって迷惑を掛ける個人の債権者には,謝罪と礼儀を尽くし人間関係を悪化させないように心がけることが必要です。


Q−7小規模個人再生では,破産のような官報公告の制度はありますか。

Aー7 開始決定・書面決議の決定・認可決定の計3回,官報による公告がなされます(法35条1項・172条2項・174条4項・10条3項)。


Q−8 小規模個人再生手続では,債権者への通知はいつ行われますか。

A−8 開始決定があったときと,再生計画案を書面決議に付するときです(法35条2項・172条2項・10条4項)。


Q−9 再生計画案が認可された後,失業や病気などで計画どおりの返済が困難になってしまった場合の救済措置はありますか?

A−9 まず,再生計画認可の決定があった後,やむを得ない事由で再生計画の遂行が著しく困難となった場合には,裁判所に再生計画変更の申立てをして,返済期限を最長2年間延長してもらうことができます(法234条1項)。

また,再生債務者が,その責めに帰すことのできない事由により再生計画を遂行することが極めて困難となり,かつ,再生計画に基づく弁済の4分の3以上を終えているなど一定の要件を満たす場合には,裁判所に免責(ハードシップ免責)の申立てをして,その後の支払いを免除してもらうことができます(法235条1項)。

(2)給与所得者等再生関係


Q−10 小規模個人再生と,給与所得者等再生の違いは何ですか? また,両者はどのように使い分ければよいのですか?

A−10 給与所得者等再生は,小規模個人再生と違って再生債権者の書面決議がなく,たとえ再生債権者のほとんどが大反対であっても,法律上の要件さえきちんと満たしていれば,再生計画案について裁判所の認可が得られますが,その代わり「可処分所得の2年分以上」という弁済額の要件が加重されること,サラリーマンのように,収入が定期的かつ安定している者でないと利用できない,というのが主な相違点です。

逆に言えば,それ以外の点,例えば再生債権の総額が5000万円以下でないと利用できない,最低弁済額が原則として債務額の5分の1以上(3000万円を超える場合10分の1以上)かつ清算価値保障の原則を満たす必要があるなどといった点は,小規模個人再生も給与所得者等再生も全く同様です。

制度発足時の趣旨としては,サラリーマンなどの給与所得者は給与所得者等再生,自営業者等は小規模個人再生という考え方であったようですが,給与所得者等再生を利用できる場合であっても,可処分所得の2年分の金額が高額になってしまい,かつ債権者の中に小規模個人再生だと反対が予想される債権者(保証会社等)がそれほどいない場合は,再生計画に基づく弁済額を抑えるために小規模個人再生を利用するケースもかなりあります。


Q−11 私は某証券会社のサラリーマンですが,給与は歩合制で結構変動があります。このような場合には,給与所得者等再生は利用できないのでしょうか?

A−11 給与所得者等再生は,給与等の収入について「その変動の幅が小さい」ことが利用の要件の1つになっていますが,その目安は年収ベースで20%以上の変動があるか否かであるとされており,給与が歩合制であっても,過去における実際の給与の変動がその範囲内に収まっており,今後も大きく変動する見込みがないのであれば,給与所得者等再生手続の利用は不可能ではありません。


Q−12 私は,前職をリストラされ,今月新しい会社に就職したばかりなのですが,給与所得者等再生は利用可能でしょうか? また,私の同僚はまだ失業中で現在仕事を探しているのですが,給与所得者等再生を利用することはできますか?

A−12 新しい会社に就職したばかりであっても,給与の額がきちんと決まっており,今後収入が安定する見込みがあるのであれば,給与所得者等再生手続の利用は可能です。
しかし,現在失業中で新しい勤務先も決まっていないような状況では,安定した収入があるとはとてもいえませんので,少なくとも新しい就職先が決まらない限り,給与所得者等再生手続を利用することはできません。


Q−13 給与所得者(サラリーマン)ではなく,年金や生活保護による定期的な収入がある人でも,給与所得者等再生を利用することは可能でしょうか? また,失業手当をもらっている場合,これを安定した収入とみなして給与所得者等再生をすることは可能でしょうか?

A−13 年金生活者でも,年金による安定した収入があり,かつその収入で生活費を支弁し再生計画に基づく返済原資も賄えるということであれば,給与所得者等再生は可能です。

一方,生活保護を受給している場合について,給与所得者等再生を利用できるかどうかは解釈上争いがありますが,生活保護は途中で打ち切られることも多いですし,そもそも生活保護は受給者の最低限度の生活を維持するために支給されるものであり,それを債権者への弁済に充てるのは生活保護制度の趣旨に反することから,生活保護を受給している人が給与所得者等再生を行うことは基本的にできないと考えられます。

なお,失業保険(雇用保険法に基づく失業等給付の基本手当)は,給付日数が最長でも330日程度しかなく,3年間にわたる弁済期間中給付が継続するものでないことは法律上明らかですので,失業保険をあてにして給与所得者等再生をすることはできません。


Q−14 給与所得者等再生は,何度でもすることはできますか?

A−14 給与所得者等再生は,過去7年以内に破産法の免責決定(確定)を受けた者,過去10年以内に給与所得者等再生手続で再生計画の認可決定を受け,当該再生計画を遂行した者,及び過去10年以内に小規模個人再生手続または給与所得者等再生手続で再生計画の認可決定を受け,ハードシップ免責の決定(確定)を受けた者は,利用することができません(法239条5項2号)。
したがって,何度でも利用できるという性質のものではないと考えられます。なお,小規模個人再生にはこのような制限はありません。


(3)(住宅資金特別条項関係)


Q−15 住宅ローン条項を使うと,どうして「自宅を守る」ことができるのですか。

A−15 住宅資金特別条項(住宅ローン条項)を定める民事再生以外の手続の場合,例えば破産手続においては,住宅の抵当権は別除権として扱われて破産宣告の影響を受けることがありませんので,破産者が住宅ローンを延滞していれば,抵当権者は当然その住宅を競売することが可能です。

一方,特に住宅がオーバーローン状態になっている場合,住宅ローンのうち抵当権によって担保されていない部分の債権は通常の破産債権として取り扱われるため,住宅ローンだけ返済を続けることもできず,結局住宅を手放すことは避けられないという結論になってしまいます。
これは,住宅ローン条項を定めない個人再生についても同様のことがいえます。

これに対し,民事再生法の住宅ローン条項を定めた住宅ローンについては,他の再生債権とはかかわりなく返済を継続することが可能である(ただし,再生手続中に住宅ローンの弁済を続けるには,裁判所に弁済許可の申立をする必要があります)ほか,住宅ローン条項を定めた再生計画の効力は,法律上住宅に設定された抵当権等にも及ぼすこととされている(法203条1項)ため,仮に住宅ローンの支払いを延滞し一度期限の利益を喪失している場合であっても,住宅ローン条項に基づく弁済を継続している限り,住宅に設定されている抵当権等の実行を回避することができるのです。


Q−16 住宅ローン条項付き個人再生手続の利用を考えていますが,既に住宅ローンを延滞しており,再生手続開始の申立てをする前や手続中に抵当権者から住宅の競売の申立てをされてしまった場合,何か打つ手はあるのでしょうか?

A−16 再生手続開始の申立があった後,住宅ローン条項を定める予定の住宅について競売の申立てがなされている場合,再生債務者は住宅の抵当権実行としての競売の中止命令の発令を裁判所に申し立てることができます。

この場合に,裁判所は認可の見込みがあるときに,中止命令を出してくれます(法197条)ので,この手続で対処することができます。ただし,中止命令によって競売の手続を止めることができるのは,競売物件について買受希望者の入札が行われ,その札が開札されるまでですので,実際に競売手続が始まってしまった場合は,早急に対処しないと手遅れになる可能性があります。

また,法律上は競売手続に入っても住宅ローン条項付き個人再生を利用できる建前になっていますが,実際には住宅ローンを延滞すると極めて多額の遅延損害金が発生し,しかも民事再生法では住宅ローン債務については利息,遅延損害金も含めて一切の免除措置がないため,現実の再生計画はかなり厳しいものになるように思われます。

例えば,3000万円の残債務額に対して仮に遅延損害金が年率15%としますと,わずか半年で約225万円もの遅延損害金が発生する計算になり,実際の再生計画ではこれらの遅延損害金を住宅ローンに上乗せして支払わなければならなくなりますので,これは再生計画を遂行する上で重大な障害となってしまいます。

ですから,住宅ローン条項付き個人再生をする場合には,「住宅ローンについてはできるだけ延滞しないこと」がとても重要であることを覚えておいてください。


Q−17 住宅ローン条項を定めることができる「住宅資金貸付債権」とは,どのようなものを含みますか。

A−17 「住宅資金貸付債権」とは,住宅の建設,購入または改良に必要な資金の貸付に係る債権であり,銀行,公庫,年金,信販等貸主が誰であるかは問わず,またリフォーム・ローンも含みます。

ただし,住宅ローンが第三者によって代位弁済された場合は,原則として「住宅資金貸付債権」には該当しなくなってしまいますが,保証会社など保証を業とする者によって住宅ローンが代位弁済された場合には,その代位弁済後6ヶ月以内に限り,住宅ローン条項付き個人再生の申立てをすることができます(このため,特に住宅ローンを既に延滞している場合,住宅ローンに保証会社がついているかどうかで,必要な対応が異なってくることがあります)。

なお,住宅資金貸付債権に該当するためには,その他分割払いの定めがあること,?再生債務者自身が負担している債務であること,住宅ローン債権そのものか,それを保証する保証会社の求償権を担保するための抵当権がその住宅(建物)に設定されていることが必要です。

また,住宅は原則として自己の居住の用に供する建物である必要があり,店舗併用住宅等であれば,床面積の2分の1以上に相当する部分が専ら自己の居住の用に供されている必要があります。


Q−18 私の自宅(建物)には,住宅ローン以外に某消費者金融の不動産担保ローンの後順位抵当権がついているのですが,このような場合にも住宅ローン条項付き個人再生は利用できますか?

A−18 住宅ローン条項は,住宅に住宅ローン以外の抵当権が付いている場合や,当該住宅以外の不動産にも住宅ローンの抵当権が付いており,その不動産に後順位抵当権が付いている場合には定めることができません(198条1項但書・同条2項但書)ので,そのような場合には住宅ローン条項付き個人再生を利用することはできません。
どうしても住宅ローン条項付き個人再生を利用したいのであれば,申立前に住宅ローン以外の抵当権を全部抹消してしまうしかありません。

なお,当事務所に住宅ローン条項付個人再生の相談に来られる方の中には,某大手消費者金融から後順位抵当権を設定されているケースが多数見受けられます。
おそらく,多重債務となってから借り換え・一本化するなどして,「その場の一時しのぎ」としてまとまった金額を借り入れるために利用されたものと思われますが,金利は決して低くないので結果的には本当に「一時しのぎ」にしかなりませんし,住宅ローン条項をつけられないという致命傷になることがあります。十分に注意してください。


Q−19 会社の事業資金のために,自宅に抵当権を設定してお金を借りてしまいました。このような場合にも住宅ローン条項付き個人再生は利用できるのでしょうか?

A−19 利用できません。住宅ローン条項付き個人再生は,あくまで住宅に住宅ローンの抵当権のみが設定されている場合の救済手続ですので,事業資金の借入など明らかに住宅ローンでない借入について自宅に抵当権を設定してしまった場合には,住宅ローン条項付き個人再生を利用することはできません。


Q−20 住宅ローンについて借り換えをしている場合でも,住宅ローン条項付き個人再生を利用することはできますか

A−20 利用できます(住宅ローン条項の適用対象となる「住宅資金貸付債権」には,借り換えをした住宅ローンを含むと解されています)。
ただし,住宅ローンの借り換えをした場合には,その借り換え分の債務が住宅ローンであることの疎明が必要であり,借り換えの際に金利が安いからといって多めにお金を借り,その一部を旧住宅ローン債務の弁済や住宅のリフォーム以外の使途(例えば,事業資金や株式投資,遊興費など)に使ってしまっているとなると,最悪の場合住宅ローンとは認められない可能性もあるので注意してください。


Q−21 住宅ローン条項に基づく,住宅ローンの支払内容はどのようなものになるのでしょうか。

A−21 原則として,住宅ローンは利息,再生計画認可決定確定までの遅延損害金を含めて全額を支払わなければならず,その支払方法には(1)期限の利益回復型,(2)最終弁済期延長型(リスケジュール型),(3)元本猶予型,(4)同意型の4種類があります。

(1)  期限の利益回復型

住宅ローンの支払いを延滞して期限の利益を喪失している場合,期限の利益喪失がなければ認可後に支払期限の到来することとなる元本及び利息については従来の約定どおりに支払い,認可以前に生じた元本・利息及び認可時までの遅延損害金については,一般債務と同じ弁済期間(最長5年)内に支払うというものです。

なお,住宅ローンの延滞がない場合は,単に従来どおり支払いを続けることになります。

(2)  最終弁済期延長型(リスケジュール型)

(1)による再生計画遂行の見込みがない場合(つまり(1)では住宅ローンを完済できる見込みがない場合)には,支払期限を従来の約定から最高10年間まで延長する定めを置くことができます。

ただし,この場合には最終弁済期における再生債務者の年齢が70歳以下であることが必要です。

この場合でも,元本・利息及び認可決定前の遅延損害金については,(1)と同様全額支払わなければなりませんが,認可決定前の元本・利息及び遅延損害金の返済期間についての制限はなくなります。

(3) 元本猶予型(元本猶予期間併用型)

(2)による再生計画遂行の見込みもない場合には,一般債権の弁済期間内で定める期間(元本猶予期間)については,住宅ローンの元本の一部及び利息のみを支払うという条項を定めることもできます。

なお,(1)ないし(3)の住宅資金特別条項を定める場合には,弁済期と弁済期との間隔や各期の返済額(元本猶予期間のそれを除く)は,もともとの契約に定めていた基準に概ね沿うものであることが要求されます。

(4) 同意型

住宅ローンの債権者の同意があれば,上記以外の内容の特別条項(最終弁済期の年齢が70歳以上となる条項,一定期間は利息だけを支払うという条項,遅延損害金を免除してもらう条項など)を定めることも可能とされています。


Q−22 同意型の住宅ローン条項では,実際にどのような支払内容が認められることがありますか。

A−22 実際にあったのは,住宅ローンを延滞していた事案について,遅延損害金を既に弁済期が到来していた分に対するものだけにしてもらったもの(つまり,期限の利益喪失条項がなければまだ支払う必要のなかった債務に対する遅延損害金を免除してもらったもの),住宅金融公庫の特例措置(最終弁済期における年齢にかかわりなく,支払期限を最長15年間延長してもらえるというもの)を利用し,同意型として再生計画に組み込んだものなどがあります。今のところ,同意型で元本の減額まで認めてくれた金融機関はありません。


Q−23 住宅ローン条項を定めた再生計画案について,住宅ローンの債権者である金融機関や保証会社が反対してきた場合はどうなるのでしょうか。

A−23 住宅ローン条項を定めた再生計画案を提出するにあたっては,あらかじめ住宅ローン債権者と協議するものとされており(規則101条1項),また,裁判所は住宅ローン債権者の意見を事前に聴取しなければならない(法201条2項)ことになっていますが,住宅ローン債権者の同意までは要求されておらず,また住宅ローン債権者は再生計画案の決議にあたり議決権を有せず(法201条1項),住宅ローン条項を定めた再生計画案は,法律上の要件を満たし,かつそれが遂行可能であると認定されれば認可されます(法202条2項2号)ので,仮に住宅ローンの債権者が再生計画案に反対であったとしても,再生計画案の認可にあたり特に支障はありません。

なお,裁判所による住宅ローン債権者への意見聴取は形式的なもので,実際にはそれほど機能しているとは思われません。


Q−24 住宅ローンは親が保証人となっているのですが,主債務者である私が住宅ローン条項付き個人再生を行った場合,保証人である親はどうなるのですか。やはり,一括請求が来てしまうのでしょうか。

A−24 住宅ローン条項を定めた再生計画は,住宅及び住宅の敷地に設定されている抵当権,住宅資金貸付債権の保証人,連帯債務者等までその効力が及びます(法203条1項)。
つまり,住宅ローン条項を定めた再生計画案が成立すれば,保証人である親に対しても,住宅ローンの期限の利益は失われなかったことになるので,あなたが今後住宅ローンの支払いを延滞しない限り,住宅ローン債権者から保証人が一括請求を受けるということはありません。

※ ただし,これはあくまでも住宅ローン条項を定めた住宅ローン債権のみに該当する回答であり,住宅ローン以外の債務(一般再生債務)については,保証人等は全額支払請求を受けることになります。


Q−25 住宅ローン以外にも,サラ金などから多額の借金をしてしまっているのですが,このような場合には,住宅ローン条項付き個人再生を利用するとどのような結果になるのでしょうか。

A−25 住宅ローン以外の債務は,個人再生手続において一般の再生債権という取り扱いになりますので,住宅ローン以外の債務については再生手続によって大幅に債務をカットした上で3年ないし5年で分割して支払い,住宅ローンについては基本的には従来どおり支払いを続けていくということになります。
小規模個人再生,給与所得者等再生のいずれであっても,また通常の民事再生手続であっても,住宅ローン条項を利用することは可能です。
なお,債務が住宅ローンしかない場合にも,住宅ローン条項付き個人再生の申立は法律上可能であると解されていますが,そのような場合には債務の減免は一切ありませんので,住宅ローンの支払い条件の変更交渉が住宅ローン債権者との間で巧くいかないような限られた場面でしか利用されないでしょう。

(4)その他


Q−26 個人再生の申立前ですが,すでに給料の差押を受けています。何か対策はありませんか。

A−26 法26条は,利害関係人(再生債務者を含む)の申立により,破産手続,再生債務者の財産に対してなされている強制執行,仮差押,仮処分,競売等の手続の中止命令を出すことができるとされています。
よって,既に給料の差押を受けている場合は,再生手続開始の申立と同時に,差押の中止命令の申立てをすることができます。


Q−27 民事再生手続の開始決定があると,どのような効力が生じますか。

A−27 以下のような効力があります。

(1) 再生債権者は,個別的な権利行使が禁止されることになります(法85条)。
(2) 既になされている強制執行等の手続は中止します(法39条1項)。
(3) 再生債権に基づく,新たな強制執行・仮差押等が禁止されます。
(民事再生手続ではこれら強制執行の中止,禁止のある点が,任意整理や従来の自己破産(同時廃止事件)よりも債務者にとっては有利な点といえます。)
(4) 債務者には財産の管理処分権(38条)が認められますが,特定の再生債権者のみに弁済するような行為は禁止され(38条2項),裁判所から指定のあった場合には財産処分,借入等については裁判所の許可を得なければならないことになります(法41条)。

もっとも,個人再生事件でこうした再生債務者の行為の制限が指定された実例は,今のところ聞いたことがありません。


Q−28 個人再生では,再生手続はいつ終結するのですか。
 

A−28 個人再生では,再生計画認可の決定がなされた場合には,その決定の確定により手続は当然に終結し(法223条),その後は裁判所の手を離れ,再生計画の遂行は債務者の手に委ねられます。
通常の民事再生手続の場合は,再生計画認可後も監督委員による履行の監督等が続くことがありますが,個人再生の場合には,手続の簡易化のため,認可確定により当然に裁判所の手を離れるものと定められています。

それゆえ,個人再生事件における再生計画の履行は再生債務者自身の手に委ねられることになりますが,その点は裁判所も不安を感じることがあるらしく,審問のときなどにも裁判官は「再生計画の履行が確実にできるか」ということについて強い関心を抱いています。
そういうわけで,時には裁判官から申立代理人弁護士に「先生からきちんと再生計画を果たすようにさせてください。」などと言ってきたり,再生計画に基づく弁済については「申立代理人が代行してやるように。」との指示を現実的に受けることもあります。

未だ発足して間もない個人再生手続が,多重債務者の救済手段の一つとして社会的に評価され定着するには,実際に個人再生手続を利用される皆さんが,再生計画に基づく弁済を無事に遂行し,個人再生手続に対する社会的信頼を獲得・維持することが不可欠です。
後になって個人再生手続を利用される方のためにも,個人再生の申立てをされた方には,再生計画の認可決定を受けただけで安心することなく,再生計画を無事に遂行し経済的再建を果たすべく努力を続けられるよう,心からお願い申し上げます。










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