第二部 離婚に付随する問題   03−3589−4905

第2章 財産分与
1 財産分与とは
民法768条1項は,「協議上の離婚をした者の一方は,相手方に対して財産の分与を請求することができる」と規定しており(771条で裁判離婚に準用),離婚に伴う財産分与の請求はこの規定に基づいて行われます。
財産分与は,当事者間の協議によって行われますが,協議が調わない場合や協議をすることが出来ない場合には,最終的には家庭裁判所の審判によって決められます。財産分与の具体的基準については,法文上「当事者双方がその協力によって得た財産の額その他一切の事情」を考慮して行うものとされている(民法768条3項)だけで,実際には裁判官の広い裁量に委ねられているのが実情です。
よく,掲示板のご質問で「財産分与を請求したらいくらもらえるのですか」などと聞かれることがありますが,上記のように法律上はっきりした基準はなく,最終的には具体的事情により裁判官がどのような判断をするかの問題になってしまうので,このような質問に対し明確な回答をすることはそもそも不可能です。
もっとも,学説上はこのような財産分与の基準を少しでもはっきりさせようと,いろいろな考え方が提唱されていますので,ここでは最も一般的と思われる学説を参考に,現実の財産分与が概ねどのような考え方によって決められるかを解説することにします。
2 清算的財産分与
一般に,財産分与の基準となる考え方には「清算的財産分与」と「扶養的財産分与」の2種類があると言われています。
前者は,婚姻生活中に形成された財産は実質上夫婦の共有財産であるという考え方を基礎とし,離婚時には財産分与によって夫婦の共有財産を分割すべきであると考えるものです。
清算的財産分与の考え方に基づく財産分与の金額は,対象となる財産に分割割合を乗じて計算されますが,この分割割合は,夫及び妻が財産形成(仕事だけではなく,家事労働などによる貢献も含む)にどのくらいの割合で寄与したかを考慮して決められます。
具体的な事情によっても変わるので一概にはいえませんが,専業主婦の妻が夫に対し財産分与請求をする場合には,妻の寄与割合は概ね2割ないし5割程度と認定されることが多いようです。一方,夫婦共働きの場合には,妻に5割を超える寄与割合が認められることもあります。
財産分与の対象となる財産は,婚姻中に貯めた現金・預貯金,婚姻中に購入した不動産などが最も典型的なものですが,当事者の一方が婚姻費用を過当に負担している場合には,その清算分も財産分与の金額に含めて請求することが出来ます。
その他,離婚時点では成熟した財産になっていなくても,婚姻中に夫(妻)が弁護士・医師・公認会計士等の高収入を得られる資格を取得したとか,作家として有名になるなどその後高収入を得られる蓋然性の高い社会的地位を取得したなどという場合には,そういった資格や社会的地位を一種の「無形財産」と考え,その無形財産の取得に他方配偶者の寄与が大きかった場合には,その無形財産も財産分与の対象にすべきものと考えられています(もっとも,無形財産そのものを分与することはできないので,金銭等で清算することになります)。
配偶者が将来受け取るべき退職金や年金については,理念的にはこれを財産分与の対象とすることにつき異論はないものの,実際に支給されるのが遠い未来である場合には,実際に支給されるかどうか不確定要素が強いため,財産分与の請求が認められないこともあります。ここ数年以内に支給される予定の退職金等であれば,財産分与請求は大抵認められますが,離婚時の支払いを命じるか退職時の支払いを命じるか,前者の場合には離婚時から退職時までの期間に対応する中間利息(年5%)を控除するかどうかなど,具体的な取り扱いは裁判例によりまちまちです。
なお,第4部で説明する年金分割制度は,将来受け取るべき厚生年金受給権の財産分与について,そのルールを法律上明文化したものであると評価できます。
3 扶養的財産分与
扶養的財産分与は,収入のない一方配偶者に対する離婚後の生活保障として行われる財産分与です。婚姻生活中に形成された財産といえるようなものが特に存在しない場合(自宅を購入したが住宅ローンで担保割れになっているような場合も含む)であっても,配偶者の一方に十分な収入がない場合には,その一方配偶者に対し,離婚後の扶養という名目である程度の金額の財産分与が認められる傾向があります。
もっとも,法律の建前上は,離婚した元配偶者は全くの他人であり,元配偶者に対する扶養義務はないものとされているため,扶養的財産分与が認められる理論的根拠は学説によっても見解が分かれています。そのうち主なものを挙げると,
(1) 有責配偶者の行為によって離婚させられ,婚姻が継続していたならば得られた扶養利益を喪失したことによる損害賠償だとする見解,
(2) 婚姻は終生の共同体であるから,離婚後も婚姻の事後的効果(余後効)として扶養義務があるとする見解,
(3) 経済的弱者を離婚できない状態から解放し,人格の尊厳を保障するものであるとする見解,
(4) 離婚後に自活できない配偶者の生活を保障するのは国家の責任であるが,社会保障の充実まで過渡的に政策上私人に課せられる義務であるとする見解,
(5) 夫婦の分業形態から必然的に生ぜしめられる夫婦の財産取得能力の差を清算する手段であるとする見解,
(6) 離婚後独力で生計を立てて行けるよう生活を援助すべき共同体構成者の過渡的責任としての生活立直し資金であるとする見解,
といったものがあると言われていますが,どの見解も今一つ決め手に欠けており,通説となるには至っていません。
裁判例は,扶養的財産分与として数百万円程度のまとまった財産の給付を命じたもの,離婚後3年間ないし10年間に限り毎月一定額の定期金を支払うよう命じたもの,配偶者の死亡または再婚まで毎月一定額の支払いを命じたものなど様々であり,しかも金額の算定にあたり相手方配偶者の有責性が考慮されるなど,財産分与と慰謝料の区別を明確にしていないものまであるため,これらの事例を1つの理論で統一的に説明することは極めて困難であると思われます(おそらく,原告の請求内容や各家庭の具体的事情にも影響されているのでしょう)。
4 財産分与に関する主な注意点
財産分与の対象となる財産は,あくまでも夫婦の婚姻中に形成された財産であり,配偶者が婚姻前から保有していた財産(特有財産)は,当然には財産分与の対象になりません。ただし,特有財産であっても,例えば特有財産である夫の賃貸アパートの管理を妻が行っていた場合など,特有財産の維持に対する寄与が認められる場合には,その寄与の範囲で財産分与の対象とされることがあります。
夫婦の婚姻中に配偶者が取得した財産であっても,それが親からの遺産相続によるものであった場合など,明らかに寄与が認められない財産については,財産分与の対象とならないことがあります。
清算的財産分与は,夫婦共有財産の分割という考え方を採っていますので,基本的に離婚原因とは関係なく請求することができます。極端な例を挙げれば,専業主婦の妻が自ら不倫をして,それが原因で離婚する場合であっても,婚姻中の生活における妻の寄与が認められる限り,少なくとも妻が清算的財産分与を夫に対し請求することは法律上可能です(ただし,扶養的財産分与が認められるかは疑問ですし,夫の妻に対する慰謝料請求などにより,実際に受け取れる金額は通常の場合より減額されたり,婚姻期間が短い場合等にはマイナスになったりすることもあります)。
財産分与は,原則的には当事者間の話し合いで決めるものであり,話し合いの結果財産分与をしないという合意をすることもできます。したがって,離婚協議書などにより財産分与請求をしないという合意をしてしまっている場合には,後でその合意を反故にして財産分与請求をすることは基本的にできません。
財産分与請求は,離婚が成立した後ですることもできます。ただし,離婚の時から2年を経過すると,法律上財産分与請求をすることはできなくなります(民法768条2項但書)。
5 財産分与請求の手続
財産分与について当事者間で協議がまとまらないとき,または協議をすることができないときは,家庭裁判所の調停手続を利用することができ,調停でも話し合いがつかないとき,または当事者の一方が行方不明などの理由で調停をすることもできないときは,家庭裁判所の審判手続で財産分与の内容が決められることになります。
なお,裁判上の離婚請求とあわせて財産分与の請求をするときには,家庭裁判所の離婚訴訟(人事訴訟)における附帯処分の請求として,離婚請求とあわせて財産分与の請求をすることもできます。
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