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個人再生徹底活用マニュアル

千川健一・坂本隆志
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第二部 離婚に付随する問題     03−3589−4905

第4章 子の親権,監護及び養育費

1 親権とは

親として,子の監護及び教育をする権利義務のことを「親権」といい,親権を行使する者を「親権者」といいます。

子の親権は,父母の婚姻中は父母が共同してこれを行使するものとされていますが,父母が離婚する場合には,協議によりどちらかを親権者として定めなければなりません。裁判離婚の場合には,親権者は判決により定められます。なお,非嫡出子の親権者は,必ず母親になります(父母の協議により父を親権者とすることもできます)。

親権者を一度決定した後は,父母の合意のみによって親権者を変更することはできず,親権者の変更は家庭裁判所の調停または審判手続きによって行う必要があります。
離婚の際には,離婚そのものについては合意していながら,親権者をどちらにするかで争いになり,裁判までもつれこむというケースもあり,離婚問題を考える際には重要な要素となっています。

2 親権者指定の基準

親権者を父母どちらにするか争いになっている場合,裁判所がどちらを親権者に指定すべきかについては,民法には明確な規定が無く,裁判官の裁量に委ねられています。

家庭裁判所の実務では,(1)乳幼児における母性の優先,(2)継続性の原則,(3)子の意思,(4)養育環境の比較,(5)兄弟(姉妹)不分離,(6)面接交渉の許容性など複数の基準が提唱されており,これらの基準を子の年齢や状況に応じてその優劣を検討して,両親の比較衡量をするものとされていますが,基本的には調停手続で当事者による自主的解決を努力がなされ,自主的解決が不可能な場合に,はじめて判決により親権者が定められます。

もう少しかみくだいて説明すると,以下のようになります。

家庭裁判所で親権者を決めてくれと言っても,すぐに判決で決めるわけではなく,なるべく当事者間の話し合いによる解決が試みられる。話し合いによる解決が不可能となった時点で,はじめて判決により親権者の決定が行われる。

親権者を父母のどちらにするかについては,法律で具体的に決まっているわけではなく,裁判官がケース・バイ・ケースで判断する。

親権者の決定には,子の利益が最も優先して考慮される。また,子供が相当の年齢に達しており自分の意思を表明できる場合には,子の意思が尊重される。

一般的には母親の方がやや有利であり,特に子供が乳幼児(5〜6歳以下)の場合には,ほとんどの場合母親が親権者に指定される。

親権者を決定する時点において,既に子が父母の一方と一緒に生活しており,その生活を継続させることが子の利益のため相当と認められる場合には,現状維持の判決になることが多い。

兄弟姉妹を分離させるような親権者指定の請求はなかなか認められない。

父母の経済状態や生活状況,子を養育できる者の有無など,子を養育する環境も考慮される。例えば,母は経済的に苦しく,かつ本人が一日中働いていて子の面倒を見る暇はないのに対し,父は経済的に裕福で,かつ父の両親などが十分子の面倒を見られるとなると,父が親権者に指定される可能性もある(ただし,母が経済的に苦しいというだけで極端に不利になるわけではない)。

面接交渉を拒否するような態度を取り続けていると,親権者指定の際不利に考慮されることもあり得る。

3 親権者と監護者

民法では,親権者とは別に,子の監護を行う者を「監護者」と呼んでおり,親権者と監護者は必ずしも同一人物でなくてもよいものとされています。そのため,離婚に伴う紛争を早期に解決する手段として,父母のうち実際に子を養育する一方が監護者とされ,他の一方が親権者とされることもあります。

このような「親権者と監護者の分離」は,親権者について激しく争われている離婚事件について,中間的な解決を図り当事者双方を納得させることができるほか,実際に子を監護しない側の親にも子の監護について責任を持たせることができるなどの利点があるとされていますが,親権者と監護者の権限分配は法律上明確に決められておらず,このような解決は紛争の火種を残すことになりかねないという問題点があるため,最近ではあまり採用されなくなっています。

なお,監護者の変更は,親権者の変更と同様に,家庭裁判所による調停や審判の手続きを経ることが必要です。

4 養育費

(1)養育費とは

親権者または監護者でない親も,子の扶養義務はありますので,子の養育に必要な費用を負担しなければなりません。この場合に,子を監護しない親が子または子を監護する親に対して行う,子の養育するための経済的給付を一般的に「養育費」と呼びます。

養育費の対象となるのは「未成熟子」であり,未成年者と同義ではありません。
家庭裁判所の実務では,子が何歳になるまで養育費の支払義務を負うかについてはケース・バイ・ケースで判断しており,一般的には高校卒業まで,または成年に達するまでと決められる場合が多いですが,両親の学歴,資力や社会的地位によっては,大学卒業時までの養育費支払義務が認められることもあります。

また,養育費は「扶養義務者が自己の最低生活を割っても自分と同程度の生活を保障しなければならない」とされる生活保持義務の一環であり,他の何にも優先して支払わなければならないものと考えられています。

そのため,養育費債権はたとえ自己破産しても免責の対象にはならず,個人再生をしても減免の対象にはならず,また支払義務者に対する給料の差し押さえはその2分の1の金額まで認められています(通常は4分の1)。多重債務を抱えている,または自己破産や個人再生の手続きを行っていると主張しても,それだけで養育費の減額等が認められるわけではありません。

父母の収入や資力が生活保護基準に基づく最低生活費以下の水準でしかなく,経済的余力がないという場合には,従来は養育費の支払義務はないとされてきた時期もありましたが,次項で説明する養育費の算定基準では,親としての扶養義務を自覚させるため,たとえ収入が生活保護基準の最低生活費以下であっても,ある程度の金額は支払わせるという考え方が採られています。

(2)養育費の算定基準

養育費の算定基準については,平成15年に算定表が発表され,多くの実務家の参考とされています。

算定表は,まず子供の人数(1〜3人)及び子供の年齢(14歳以下か15歳以上か)により9種類があり,義務者(養育費を支払う側)と権利者(養育費を受け取る側)双方の年収(自営業者か給与所得者かによっても基準が異なる)によって,標準的な養育費の金額が決まります。なお,具体的な個別事情をも考慮できるように,養育費の金額には1〜2万円の幅が取られています。

例を挙げると,12歳と9歳の子供がいる夫婦が離婚し,夫の前年度年収が700万円,妻の前年度年収が200万円(夫婦共に給与所得者),子供は2人とも妻が引き取るという場合,算定表によれば夫が妻に対し支払うべき養育費の金額は8〜10万円となり,具体的な金額は個別の事情に応じて,上記の範囲内で決められることになります。

このHPには養育費の算定表自体は掲載していませんが,掲示板で事案の概要と子供の人数・年齢,夫婦の年収を明記して質問していただければ,算定表による養育費の標準額をお答えします。

この算定表の作成にあたっては,養育費の算定にあたり通常考慮すべき事情は幅の中で既に考慮されており,算定表の幅を超えて養育費の金額を増減することが認められるのは,この算定表によることが著しく不公平となるような特別の事情がある場合に限られると解されています(つまり,非常に稀だということです)。

なお,養育費の算定に関する注意事項をいくつか挙げておきます。

算定の基礎となる前年度の年収は,給与所得者の場合には源泉徴収票の「支払金額」,自営業者の場合には確定申告書の「課税される所得金額」が基礎となります。当事者が資料の提出に応じない場合や資料の信頼性が乏しい場合には,賃金センサス等を利用して適宜推計することになります。

権利者が,十分働ける状況にあるのに働いていない場合には,パート就労者の平均賃金などを基準に,潜在的稼働能力の推計が行われ,それをもとに養育費の算定が行われることがあります。潜在的稼働能力があるかどうかは,権利者の就労歴や健康状態,子の年齢や健康状態等も考慮して判断されるため,子が幼い場合や病気・障害などを抱えている場合には,実際に働いていなくても当然に潜在的稼働能力があると判断されるわけではありません。

(3)養育費の増減請求及び放棄

養育費の金額や支払方法は,父母の協議により決定や変更を行うことはできますが,養育費の請求権は扶養請求権の一環であり,法律上は他人に譲渡することも放棄することもできないものと解されています。

そのため,仮に離婚時などに両親が「養育費の請求はしない」などといった合意をし,覚書や契約書まで作ったとしても,子はその合意によって法的に拘束されるわけではなく,子を監護している親は子を代理して,他方の親に対し養育費の支払請求をすることが出来ます。

また,両親が養育費の具体的金額について合意した場合であっても,子がその合意に拘束されるわけではなく,両親間の合意は具体的な養育費の金額を決める際の考慮要素とされるに過ぎませんので,両親の間で一旦合意された養育費の金額が不相当に低額である場合には,子を監護している親は子を代理して,他方の親に対し養育費の増額請求をすることが出来ます。

養育費の支払金額について当事者間で合意が調わない場合には,家庭裁判所の調停または審判手続きで金額を決定することになります。一旦養育費の金額等が決まった後,その変更について当事者間の合意が調わない場合も同様です。

5 面接交渉

(1) 面接交渉とは

面接交渉とは,親権または監護権を有しない親が,未成熟の子供と面接及び交渉をすることです。
面接交渉権について法律は明文の規定を置いていませんが,判例上面接交渉を認めるかどうかという問題は,家庭裁判所の審判事項の1つである「子の監護に関する処分」の問題とされ,子供の面接交渉について当事者間で協議が調わないときは,家庭裁判所の判断を仰ぐことができるものとされています。

なお,子の両親以外の者(祖父母など)については,子の監護に関する処分として面接交渉を認めることはできないと一般的に解されています。

(2)面接交渉は「権利」か?

時々,掲示板に「子を監護している相手方が面接交渉に応じてくれない,これは違法ではないか」というような書き込みをしてくる人がいますが,残念ながら面接交渉は親の「権利」として認められているわけではありません。

東京高等裁判所昭和40年12月8日決定(家月18巻7号31頁)は,離婚後に親権者とならなかった母が5歳の子との面接交渉を求めた事案で,「未成年の子が何らかの事情で実母の手を離れ他の者の親権および監護権に服している場合には,親権及び監護権の行使との関係で制約を受けることはこれを認めた法制上当然のことといわなければならない」と判示し,親権及び監護権がない親には面接交渉権が認められないとの判断を示しています(面接交渉権を認めた原審判を破棄)。

その後の裁判例においても,面接交渉を認めるかどうかは子の利益,子の福祉の観点から判断されており,面接を認めない方が子の福祉に適うと判断されることもあります。

(3)面接交渉が制限される(認められない)場合

面接交渉は子の福祉の観点からその是非が判断されますので,事案によっては家庭裁判所に申立てをしても面接交渉が認められないこともあります。

面接交渉が認められないことが多い事案としては,以下のようなケースが挙げられます。

A.子と同居している親が再婚し,子が再婚相手の養子となっている場合
このような事案では,子が再婚家庭に適応しており,子が再婚相手を実の親と言い聞かされている場合も多いことから,子を実親と面会させるとかえって再婚家庭の生活の平穏を害し,子の福祉に適合しないと判断され,面接交渉が認められないことが多いといえます。上記東京高裁の決定も,まさにそのような事案でした。
ただし,相手方の親が再婚している事案でも,子が相当の年齢に達し(概ね中学生以上),再婚の事情も理解できているという場合には,その子との間の面接交渉が認められることはあります。
B.非監護親に問題がある場合
面接交渉を請求する親(非監護親)に問題がある場合,例えば非監護親に児童虐待,覚せい剤の使用,酒乱などの性癖がある場合,相手方の親やその親族に対し暴行や脅迫を繰り返すといった事情がある場合には,面接交渉は認められません。
なお,非監護親が面接交渉のルールに違反した場合には,家庭裁判所の審判で面接交渉の禁止が認められることもありますが,非監護親が養育費の支払いを怠ったというだけで直ちに面接交渉を拒否できるわけではありません(ただし,養育費をきちんと支払っているかどうかは,面接交渉を認めるにあたり重要な判断要素として考慮されますし,養育費の不払いがあると相手方の態度が硬化し事実上面接交渉が難しくなる場合も多いので,「養育費を支払わなくても面接交渉はできる」などといった勘違いはくれぐれもしないようにしてください)。
C.父母の争いが激しい場合
離婚成立前などで,父母の間の紛争がまだ解決していない場合には,面接を認めない方が子の福祉に適うと判断されることもあります。
もっとも,裁判所で面接交渉が決められる場合のほとんどは,父母の対立が激しく,子を監護している親が強く面接交渉を拒絶している事案であり,家庭裁判所調査官の関与によって父母の葛藤を緩和し,面接交渉が認められる方向に動いてくれるので,相手方との対立が激しいというだけで面接交渉が無理になるわけではありません。ただし,相手方の任意の履行に頼るという面接交渉の性質上,面接交渉が実現するまでの時間は相当かかると考えた方がよいと思います。

(4)面接交渉の具体的方法

家庭裁判所の調停や審判で面接交渉を求めた場合,家庭裁判所調査官が家庭訪問等により子の状況を調査します。その上で面会の機会を与えてもよいとの判断がなされた場合には,調停の手続中に家庭裁判所で面会する,あるいは調査官や双方弁護士の立ち会いのもとで,家庭裁判所以外の場所で面会するなどの方法が講じられることもあります。

調停や審判で,面接交渉について具体的なルールが定められたときには,そのルールに従って面接交渉を行うことになりますが,事案によっては直接の面接ではなく,メールや手紙の交換,写真やビデオの送付,学業の状況についての報告といった方法が取られることもあります。

調停が成立したのに面接交渉の履行がなされない場合には,家庭裁判所に履行勧告を申し出ることができます。履行勧告は,裁判官や調査官が当事者双方から事情を聴取した上で,面接交渉を拒否している親に対してその履行を勧告するものであり,正当な理由なく履行勧告に従わなかった者は,10万円以下の過料に処せられます(ただし,面接交渉が法的手段により強制され,それにより親同士の紛争が激化すればかえって子の福祉を害する結果となるので,裁判所としても面接交渉はなるべく当事者が任意に履行するのが望ましいと考えているようであり,面接交渉が履行されないからといって直ちに過料の制裁がなされるわけではありません)。

その他,面接交渉が合意どおりに履行されない場合には,慰謝料請求が認められる場合があるほか,調停条項で損害賠償の予定や間接強制(一定の期間内に面接交渉をしないときは,1日につき金○円を支払え,などとするもの)を定めておけば,不履行があったときに強制執行をすることもできますが,面接交渉の具体的内容が当事者の協議に委ねられている場合には,債務の内容が特定されていないため強制執行ができないこともあります。

つまり,面接交渉が当事者の任意に履行されない場合,これを法的手段によって強制するには限界があります。もちろん,家庭裁判所も調査官の専門的知識・技能を駆使して,なるべく面接交渉が円滑に行われるよう努力してくれるので,家庭裁判所に面接交渉の調停を申し立てることは決して無意味ではありませんが,一旦決まった面接交渉を長続きさせるためには,各当事者も面接交渉の基本的なルールやアドバイス(家庭裁判所でパンフレットなどが渡されて説明されます)をきちんと守る必要があります。

6 人身保護請求手続

子の奪い合いの紛争では,人身保護請求手続きが利用されることもあります。
人身保護請求は,不当に身体の自由を拘束されている者を迅速かつ容易に救済することを目的とする手続であり,ある者の身体の自由が拘束され,その拘束に顕著な違法性が認められ,かつ他の適切な方法がない場合に,高等裁判所または地方裁判所に人身保護の請求をすることができます。人身保護請求の際には,特別の事情がある場合を除き,必ず弁護士を代理人としなければなりません。

人身保護請求の手続きは簡易迅速に行われ,しかも強力です。請求日から1週間以内に審問手続きが開かれ,拘束者が被拘束者を審問場所に出頭させないと勾引,勾留及び過料の制裁があり,釈放の判決に従わない場合には2年以下の懲役または5万円以下の罰金に処せられます。

子の奪い合いの紛争については,現在では家庭裁判所で審判前の保全処分の制度が設けられていることもあって,基本的には家庭裁判所の手続きを利用すべきものと考えられており,子供の安否に関わるなど緊急の必要性がある場合を除いては,いきなり人身保護請求をしても簡単には認められません。

ただ,離婚調停中の面接で子供を強引に連れ去った事案など,当事者が家庭裁判所の手続きを侮辱するような形で子を拘束したものに対しては,裁判所も人身保護請求による救済を認める傾向にあります。

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