第六部 債務整理の関連知識   03−3589−4905
5 債務整理と資産との関係
債務整理手続は,基本的には債務の支払能力がない場合に行うものですので,債務者に不動産等の資産がある場合は,そもそも債務整理をすることができるかどうか,また債務整理においてどのような負担が生じるか,といったことが問題となります。
ここでは,それらの問題点についてまとめて解説します。
(1) 資産として考えられるもの
「資産」といえば,通常は不動産,動産といった形のあるものを想像される方が多いと思われますが,それらに限定されるわけではありません。債務整理手続において,「資産」として問題となる代表的なものには,以下のようなものがあります。
1) 不動産
不動産(土地,建物等)は,一般的にはかなり高価な資産ですが,それを使用しながら担保に入れることができるという特質を持っている資産であり,そのため最も担保権が設定されやすい資産です。住宅を購入する場合には,必ずと言ってよいほど住宅ローンの抵当権が設定されますし,事業をされている方であれば,事業資金の借り入れをするにあたり,金融機関から不動産について根抵当権を設定されることも多いでしょう。
不動産については,以下のような場合分けをする必要があります。
イ) 担保権が何も設定されていない場合
この場合は,不動産の時価相当額の資産(通常かなり高額な資産)を持っていることになるので,特に自己破産や個人再生はそもそも利用できない可能性があります。
ロ) 担保権はついているが,余剰価値が残っている場合
不動産に抵当権などの担保権が設定されている場合でも,その不動産の時価が,抵当権などによって担保されている債権額(被担保債権額)の総額を上回る場合には,その時価から被担保債権額を差し引いた金額(余剰価値)相当額の資産を持っていることになります。
ハ) 担保権がついており,余剰価値が残っていない場合
不動産に抵当権などの担保権が設定されており,その不動産の時価が被担保債権額の総額を下回るとき(いわゆる「オーバーローン状態」のとき)には,資産を持っているということにはなりません。
ただし,抵当権等によって担保されている債務の支払いができない場合には,その不動産は競売にかけられ,その所有権を失うことになります。
2) 動産
家財道具等の一般動産であって,売却してもほとんどお金にならないようなものについては,債務整理手続ではほとんど問題になりません。
実際に問題となるのは,自動車など比較的高額な財産のみです。
なお,動産であっても工場機械などについては,不動産と同様の取り扱いになることがあります。
3) 債権等
イ) 預貯金
ロ) 株式その他の有価証券
これらが資産になることについては,敢えて説明する必要はないでしょう。
ハ) 保険解約返戻金
貯蓄性のある生命保険(年金保険,学資保険等も含む)については,解約したときに高額の解約返戻金が発生することがありますが,その解約返戻金相当額は,債務整理手続において資産とみなされます。
4) 継続的に発生する債権
給料債権が代表的なものですが,自営業者であれば,取引先に対する売掛金債権なども考えられます。
5) 退職金
退職金(見込額)については,その4分の3相当額は差押禁止債権になっていますので資産にはなりませんが,残る4分の1については,資産とみなされる場合があります。
なお,東京地裁など多くの裁判所では,退職金見込額の8分の1を資産とみなす取り扱いが定着しています。
(2) 債務整理にあたって考慮すべき事項
1) 手放してもよい資産かどうか
債務整理をすることにより手放しても構わない資産であれば,それを手放して債権者への支払原資に充てたり,債務整理のための弁護士費用に充てればよい話なので,それほど問題にはなりません。
一方,例えば自宅不動産など「どうしても手放したくない。」という資産を債務者,あるいは保証人が持っている場合には,どのようにしてその資産を守りながら(債権者からの差押等を防ぎながら)債務整理するか,あるいはそれができるかということが問題になります。
なお,債務の支払が困難な状態に陥った後に,不動産等の資産を親族等に無償で譲渡(贈与)したり,極めて低い金額で譲渡したりすると,後に債権者から詐害行為取消訴訟を提起されたり,自己破産した場合には破産管財人から否認訴訟を提起されたり,免責の障害事由となったり,最悪の場合には強制執行妨害罪や詐欺破産罪等の刑事罰の対象となることもありますので,債権者からの差押等を防止するために資産を譲渡することについては慎重でなければなりません。
2) 債権者側の考え方
債務整理の進行に債権者の協力を必要とする手続(任意整理,小規模個人再生など)の場合はもちろんのこと,手続途中で給料差押等の強制執行をかけられるおそれのある自己破産事件などについても,債権者側の考え方を理解しておくことは,円滑に債務整理を進めるためには不可欠な事項となります。
債権者側の基本的な考え方は,経費と労力をかけずにできるだけ早期に債権を回収することであり,差押え可能な資産があるとしても,差押にかかる経費や労力は,資産の内容により大きく差異があります。
たとえば,不動産の差押をする場合には,資産隠しなどに遭う危険性は低いですが,初期費用としてかなりまとまった金額(100万円前後)が必要となり,しかも差押後不動産を競売して売却代金を受け取ることによりはじめて債権を回収することができるため時間も相当かかりますから,不動産の差押は多額の債権を有している債権者でないと申立をしにくいという面があります。
次に,給料債権などの債権差押申立には,数千円程度の費用で足りますので,気軽に申立をすることができ,しかも給料の差押となれば債務者側に与えるダメージも大きいため,債務者から任意の弁済を促す手段としても多用される傾向にあります。
ただし,給料債権はその4分の3(最大月21万円)が差押禁止債権とされているため,債務者が月給100万円などといったかなりの高給取りでない限り,多額の債権を短期間で回収するにはあまり向いていません。
他方,自動車の場合は,差押えの申立費用はそれほど多額ではありませんが,自動車はその性質上どこに持って行かれるか分かりませんので,実際に差押えをするときには自動車の所在を特定するのが大変な作業になります。もっとも,これは自動車に限った話ではなく,宝石,書画,骨董品など高価な動産一般についていえることですが。
また,貸金業者や金融機関などの債権者については,カットした債権額が税法上貸倒と認定され損金計上できるかどうか,債権放棄等が金融庁などによる監督処分の対象にならないかどうかといった要素も考慮事項になりますし,一方個人等の債権者については,経済的利害よりもむしろ債務者に誠意が見られるかなどという感情的な要素で動く人が多いことにも注意する必要があります。
3) どのような債務整理方法をとるか
任意整理,自己破産,個人再生,いずれの方法をとるかで資産に対する考え方は異なってきます。これは次項以下で詳述します。
(3) 任意整理の場合
任意整理の基本的な考え方は,3年完済が原則であることは,第2部の1で説明しており,その慣行内で十分処理できる事案であれば,よほど高額の資産のあることが債権者に知られているのでない限り,資産の有無はそれほど問題になりません。
しかし,任意整理交渉の際には,債権者との間で「本人の支払能力はこの程度が限界」と伝えながら,和解内容を模索していきますので,相当の余剰価値がある高額な資産があると分かれば,債権者が和解交渉の際に強気になってくることが考えられます。
例えば,債務者に不動産,価値ある自動車や保険解約返戻金などの高額な資産がある場合には,分割払いの和解案を提示しても,「価値のある資産を持っているなら,その資産を処分して,一括弁済をするべきであるから,将来利息のカットなどには応じられない」などと言われてしまう可能性がありますし,高額の給与収入や賃料収入等がある場合には,より短期の完済を要求されるなど,債権者側の和解案に対する要求のレベルは当然上がってきます。
もっとも,資産のうち不動産は登記簿謄本を調べれば直ぐに分かりますが,それ以外の資産については必ずしも債権者に知られているとは限られないので,実際にはこれを知らせないまま交渉を進めるという場合も結構あります。
なお,3年間の元金分割返済といった原則的な解決ができない,いわゆる「ぎりぎりの交渉」の場面では,債権者の有している債権額も交渉に大きな影響を与えます。
前述のように,不動産の強制執行には債権者としても相当の経費を最初にかける必要があるので,債権額が100万円以下の債権者が不動産の差押をしてくる例はほとんどありませんが,商工ローンなどからの借入や,銀行等からの借入の保証債務などの場合は,債務額が数千万円など相当高額になる場合もあるので,債権者が不動産の強制執行による債権回収という手段を選択する可能性も十分あり得るわけです。
それゆえ,こうした大口の債権者に対する任意交渉は,通常の場合よりも一層慎重になる必要があり,場合によっては債権者の要求する和解内容にほとんど追従する形にならざるを得ないということもあり得ます。
つまり,債権者側からの不動産に対する差押の威圧感により,債務者側から強気な和解案を提示できないということです。
余剰価値がある不動産の場合にはより債務者にとって強いプレッシャーとなります。
つまり,余剰価値がなければ,債権者は判決,公正証書等の債務名義(詳しくは第6部の2参照)を有していても,不動産の強制執行の申立はできませんが,余剰価値がある場合には,債権者にとって有効な債権回収方法として不動産の強制執行がクローズアップされるわけです。
そして,不動産の強制執行手続にかかる期間を考慮しても,長くても1年程度あれば全額回収されることが見込まれるのであれば,債権者は長期分割弁済よりもそちらを選択した方がメリットが高いと判断するのですから,そのような債権者から妥協を引き出すことが非常に困難であることはお分かり頂けると思います。
(4) 自己破産の場合
1) 同時廃止か管財事件か
自己破産における,基本的な考え方は破産宣告時の資産を換価処分して,それを破産財団に組み入れて,債権者に公平に配当するというものです。このような破産財団を形成して,配当手続に入るという破産手続の基本形態以外に,破産手続には同時廃止という場合があります。これは,債務者に見るべき資産がないので,破産宣告と同時に破産手続を廃止(終了)させて,直ぐに免責手続に移行してしまうというものです。
実は,一般の個人で申し立てる破産手続のほとんどが,こうした「同時廃止手続」で進行されています。見るべき資産があるかどうかの判断基準は,東京地裁では,「20万円以上の価値ある資産があるか否か」で判断します。
これは合計額ではなくて,個々の資産単一で20万円以上の価値があるかどうかで判断されます。
例えば,自動車の評価額が20万円以上である場合,あるいは保険解約返戻金20万円以上である場合,退職金受取見込額の8分の1が20万円以上である場合などです。
2) 少額管財
東京地裁や横浜地裁などでは,破産手続の実務的運用として少額管財という方法を積極的に用いています。従来,管財事件における予納金は最低でも50万円が必要でした。このような高額の費用を用意できる破産債務者はほとんどいませんし,これを要求することは破産債務者の経済的な負担が非常に重たくなり,破産債務者の経済的更生という本来の目的に沿いません。
以前は,そうした資産相当額を任意配当(申立代理人が債権者の債権額に応じて案分して配当)して処理していたのですが,申立代理人が任意配当することに関する手続的不透明性などを危惧したためか,東京地裁が低廉な費用で管財手続を利用できるように,少額管財制度が設けました。現在,特に東京地裁ではこれを積極的に利用する傾向にあります。
これを少額管財手続と呼んでいます。
少額管財は,破産者に浪費など免責障害事由が認められる場合の「免責調査型」,法人などの事業者破産を含んでいる場合の「事業者破産型」,給料などの差押えを回避するための「差押回避型」というような多目的のために利用されているのが現状です。
3) 保険の解約,自動車の売却等
「保険は必ず解約しなければならないのか?」,「あるいは自動車は必ず売却しなければならないのか?」というと,そうではありません。破産宣告を受けると,破産者が宣告後に得た収入は自由財産と呼ばれ,それは自由に使ってよいものとなります。
ですから,そうした自由財産や,あるいは親族の援助などにより保険解約返戻金相当額を財団に組み入れたり(管財人に支払うということ),自動車の価値相当額の金員を財団に組み入れたりすることで,保険の解約や自動車の売却は免れることができます。
時期的な限界は,債権者集会まででしょうから,破産宣告を受けてからどんなに遅くても4ヶ月以内にその金銭を準備する必要があります。そうした可能性がある場合には,申立代理人とよく打ち合わせをして,できるだけ債権者集会を遅く入れてもらうようにする必要があります。
4) 不動産
破産宣告時において,不動産の時価の1.5倍以上に相当する額の抵当債務額がある場合には,オーバーローンと呼ばれて,破産債務者が不動産を所有していても管財手続によらず,同時廃止手続によることができる実務運用が定着しています。
これは,管財人を付しても,任意売却によって財団の積極財産を形成することが期待できないことが明らかだからです。この場合には,その不動産が競売により落札されて,買受人から明渡請求を受けるまで,その不動産に居住を続けることができます。
もちろん,住宅ローンなども破産免責の対象となりますから支払う必要はありません。ただし,固定資産税などは免責の対象外ですから支払義務は残ることに注意して下さい。
仮に,オーバーローンとならず,管財人がついた場合には,管財人は破産財団を少しでも増やそうとして,その不動産の任意売却に努めます。不幸にして任意売却が成功してしまった場合には,不動産から退去しなければなりません。
5) 破産宣告前の資産の処分
破産宣告前に価値ある資産を処分することは,否認訴訟の対象となり,その効力が否定されたり,免責障害事由になることもあるので,慎重を期す必要があります。
裁判例では,不動産を時価相当額で売却した場合にも,詐害行為取消権(否認権)の対象になるとしたものがありますから,不動産については時価相当額の売却はもとより,贈与することについては十分に気をつけなければなりません。
特に,不動産を破産によって手放すことを回避するために,配偶者などに無造作に贈与してしまう例が少なくありません。
離婚による財産分与であり,財産分与として相当な額の範囲内であれば詐害行為取消権(否認権)の対象とならないとした判例もありますが,財産分与として相当な額の範囲内であるかは微妙な判断が要求されますし,財産分与等として不動産を譲渡すると多額の(譲渡)所得税が課税されてしまう場合もありますので,少なくとも,事前に専門家(弁護士,司法書士及び税理士)の指導を受ける必要があります。
(5) 個人再生の場合
1) 清算価値保障の考え方
個人再生と自己破産が決定的に違うのは,自己破産が「破産宣告時の資産を処分して債権者に配当し,残りの債務について債務者を免責する。」ものであるのに対して,個人再生は「将来の収入から債権者に一定額を返済して,残りの債務について債務者を免責するもの。」ということです。
そして,個人再生の場合には,債権者の得る配当は,破産手続より劣ってはならないという清算価値保障の原則があるのです。
それゆえ,保険解約返戻金,自動車,別荘など,どんな資産であれ再生手続で処分する必要はありませんが,その資産価値の合計額を再生計画による弁済額が上回っていなければならないのです。この点は,非常に間違いやすいのでよく注意してください。
2) 自動車ローン等と住宅ローンの違い
個人再生(民事再生)を申し立てることは,通常のローン契約では期限の利益喪失事由となっています。従って,一括支払請求を受け,所有権留保のついている自動車であれば引き上げられますし,その他の担保付資産についても担保権実行(競売等)の流れになります。
しかし,住宅ローンについては,住宅ローン特別条項付個人再生を申し立てることで,そうした競売の流れを食い止めることができるのです。この点は,個人再生Q&Aをよくご覧ください。
3) 住宅ローン条項をつけない場合
住宅を守る気持ちがなくて個人再生をする方は余りおられないと思います。住宅ローン条項をつけなければ,基本的には住宅ローン債権者は競売の流れで進めますし,それを止める方法もありません。
言い方を変えると,住宅ローン条項を付ければ,住宅ローン債権者が競売を申し立てたとしても,これを止めることができるのです。
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