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先物取引被害事件とその解決法
3 「客殺し」の実態
わが国における先物取引は,海外のそれに比べ市場規模が極めて小さいため,取引時に委託業者へ支払う手数料が非常に高額になっています(高額にしないと業者が食べていけないのです)。
取引手数料が高額であれば,相場の上下により多少利益を得ても,その利益はすぐ売買手数料で吹き飛んでしまいますが,業者は手数料を多く取るために,巧みな勧誘手法を駆使して顧客の取引回数や取引金額(業界では「枚数」と呼ばれることが多い)を増やそうとします。
その典型的手法を挙げると,以下のようなものになります。
(1)「大学の同窓会名簿を見た」などといって,無差別に電話で勧誘をかけ,すぐ担当者が訪問に来る(ただし,最近は広告を見て顧客の方から資料請求をするというケースもある)。
(2)先物取引の仕組みについて難しい説明をし,最近の気候や社会情勢などにかこつけて「今なら絶対儲かる」「今がチャンスです」などと調子の良い勧誘を繰り返す。例えば原油の取引なら,「今はイラク戦争の影響で中東情勢が不安定になり,原油価格が高騰しているので,今買えば何倍にも儲かる。このチャンスを逃す手はない。」など。
(3)勧誘はまず買いから入る。先物取引は売りから入ることもできるが,一般の顧客は物を持っていないのに売りから入ることには抵抗があるため。「騰がりますから,今が買いです。」という勧誘文句は,素人にも分かりやすい。
(4)本当に値が騰がった場合は,次々に根洗いをして,建玉(取引単位)を増やす。利益金は,顧客を信用させるため一部を返すこともあるが,多くは顧客をうまく言いくるめて,利益を次の投資のための資金(証拠金)にしてしまう。
(5)値が下がった場合には,顧客が取引をやめたいので手仕舞い(一切の建玉を処分して取引を清算し,残っている証拠金を返してもらうこと)をしたいと申し出ても,今やめたら大損だ,頑張れば絶対取り返してやるなどといって,なかなか応じてくれない。それどころか損を取り返すのに必要だなどと大騒ぎをして「両建て」を勧める。
「両建て」とは,売りと買いの両方の取引をすることで,業者は「リスクヘッジのため」「損を拡大しないため」「保険をかけるため」などともっともらしい理由を付けて両建てを勧めるが,実際には取引枚数が倍になって手数料がかさむだけで,顧客にとっては全く経済的合理性のない取引である。一方,業者は手数料収入が一気に倍になってホクホクである。
(6)利益の出ている方の取引を盛んに仕切り,そちらは枚数を増やす一方で,損が出ている方の取引はそのまま放置する。そして,利益が出ていても損をしていても,様々な理由を付けて顧客に多額の追加投資を迫る。
(7)やがて,利益の出ている方で売買を繰り返し,すべて利益を手数料に替えることに成功したら,今度は残った損の出ている建玉を処分し「損切り」していく。全部損切りすれば,顧客の証拠金は計算上ゼロないしマイナスになり,業者から顧客に返さなければならない差損金はほとんどなくなる。
このようにして,現象的には顧客の持っている多額のお金が業者にわたり,そのお金の大半は業者の手数料に消え,ほとんど顧客に戻ってこないということになります。弁護士のところに先物取引で相談に来られる人は,こういう風になった人ばかりです。
また,先物取引は普通の売買と同じく,買う人と売る人の両方がいてはじめて取引が成立するものであり,物の相場が上がれば買いを建てている人が儲かり,相場が下がれば売りを建てている人が儲かるという風に,両者の損益はちょうど反対になります。
そして,顧客が買いを建てるとき,売りの側には取引を勧誘している業者自体が回っていることもあり,この場合には取引による顧客の損失がそのまま業者の利益になります。このような取引のことを「向かい玉」といい,先物取引の業界では時々散見されます。
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