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第2部 相続に関する民事法の基礎知識
(相続の開始)
1 相続は、原則として、被相続人が死亡したとき(民法882条)、被相続人の住所において開始します(同883条)。なお、「相続開始地」は、相続に関する紛争の管轄裁判所に影響するものですが、それ以外はあまり重要なものではありません(詳細は第3部の1参照)。
2 相続が発生すると、相続人は、原則として相続開始のときに被相続人の財産に属した一切の権利・義務を承継します(民法896条本文)。つまり、被相続人の資産(積極財産)だけでなく、被相続人の負債(借金など)も相続するということです(詳細は第3部の2参照)。
ただし、例外として、被相続人の「一身に専属したもの」は承継することができません(同条ただし書)。
「一身に専属したもの」の具体例を挙げると、
・弁護士、公認会計士その他の資格
・生活保護受給権、親族間の扶養請求権
・使用貸借権(建物などの財産を無償または著しい低価格で借りる権利のことです)
・保証の範囲が限定されていない包括的根保証契約に基づく債務
などが挙げられます。
3 相続人となる人は、原則として民法に定められた被相続人の「推定相続人」です。
推定相続人は、民法887条ないし890条により以下のように定められています。
(1) 被相続人の配偶者(戸籍法に基づく婚姻の届出をした者に限る)は、常に相続人となる(相続の順位は、2から4までの相続人と常に同順位です)。
(2) 被相続人の子は、相続人となる。
(3) 被相続人の直系尊属(父母、祖父母など)は、被相続人の子及びその代襲相続人※がいない場合に限り、相続人となる。ただし、親等の異なる者の間では、その近い者を先にする。
※法定相続人になるべき子供や兄弟姉妹が先に死亡している場合、その子供が、死亡した被相続人の子供または兄弟姉妹の代襲相続人となります。
(4) 被相続人の兄弟姉妹は、被相続人の子及び代襲相続人がなく、かつ、相続人となる被相続人の直系尊属もいない場合に限り、相続人となる。
ただし、推定相続人であっても、相続欠格事由のある者、被相続人により廃除された者は相続人となることができません。
また、推定相続人が相続開始時に既に死亡しており、または相続欠格事由があり、若しくは廃除されているときは、その子が代襲相続人となることがあります(詳細は第3部の3参照)。
4 相続人が複数いる場合、その相続の割合(相続分)は、被相続人が遺言をしていた場合はそれにしたがって決定され、遺言をしていない場合は、相続人が法定相続分により相続します。
法定相続分は、民法900条、901条で以下のように相続分が定められています。
(1) 配偶者と子が相続人である場合
配偶者が2分の1、子が2分の1
(2) 配偶者と直系尊属が相続人である場合
配偶者が3分の2、直系尊属が3分の1
(3) 配偶者と兄弟姉妹が相続人である場合
配偶者が4分の3、兄弟姉妹が4分の1
子、直系尊属、兄弟姉妹が数人いるときは、各自の相続分は原則として均等ですが、例外として非嫡出子の相続分は嫡出子の相続分の2分の1に、父母の一方のみを同じくする兄弟姉妹の相続分は父母の双方を同じくする兄弟姉妹の相続分の2分の1となります。
代襲相続人の相続分は、本来相続人となるはずであった者の相続分と同じであり、その者に複数の子がいる場合は、原則としてその者の相続分を均等に相続しますが、その者の非嫡出子の相続分は嫡出子の相続分の2分の1となります。
代襲相続人などが絡んでくると、法定相続分の計算は司法試験(第2次試験の択一)で出題されるくらい複雑になることがありますので、よく分からないときは掲示板に具体的な事案を書き込んで頂ければお答えいたします。
なお、遺言により相続人でない人に対して相続財産を与えることもできますが、これは「相続」ではなく「遺贈」であり、その場合に相続財産を受け取った人は「相続人」ではなく「受遺者」と呼ばれるのが普通です(法定相続分については第3部の4、遺言については第3部の5、遺贈については第3部の10参照)。
5 相続が発生すると、相続人は原則として被相続人の一切の権利・義務を承継することになりますが、相続人となるべき人は、相続を放棄することによって、被相続人の権利・義務を承継しないこともできます。
具体的には、被相続人に多額の借金があるなどの理由で相続をしたくないときは、相続人は家庭裁判所で「相続放棄」の申述をすることで、相続人としての一切の権利・義務を放棄する(つまり相続人にならない)ことができます(民法939条。もっとも、被相続人に借金がなくても相続放棄をすることは可能です)。
また、被相続人には多額の資産があるが負債も多額にのぼり、純資産がプラスになるかマイナスになるか分からないなどという場合は、「限定承認」の手続きをとることで、相続によって得た財産の限度においてのみ被相続人の債務及び遺贈を弁済すべきことを留保して相続の承認をする(つまり、被相続人の財産は全部相続して、被相続人の借金などは相続した財産の範囲内からのみ支払うものとする)こともできます(922条)。以上の詳細は第3部の6を参照してください。
6 相続人が数人いる場合、被相続人の財産は相続人全員の共有となりますが、遺言により遺産分割が禁止されている場合を除き、各相続人はいつでも遺産の分割をすることができます(民法907条)。遺産分割は、原則として共同相続人の協議により行いますが、当事者間で協議が整わないとき、または協議をすることができないときは、家庭裁判所の調停または審判により遺産分割を行うこともできます(詳細は第3部の7参照)。
7 相続の対象となる財産(相続財産)は、原則として相続開始時に被相続人が所有していた財産ですが、民法上「特別受益」及び「寄与分」という例外が認められています。
(1)特別受益
共同相続人のうち、被相続人から遺贈を受け、または婚姻、養子縁組のため若しくは生計の資本として贈与を受けた者があるときは、これらの贈与等は「特別受益」であるとされ、相続分の計算においては、被相続人が相続開始時に有していた財産(積極財産の総額であり、債務を控除した純資産の総額ではない)の価額に特別受益の額を加えた金額を相続財産であるとみなし、これを法定相続分または指定相続分に従って分割した額が各自の相続分とされます。
この際、特別受益を受けた者(特別受益者)の相続分については、自己の相続分から特別受益の額を控除し、その残額のみが特別受益者の相続分となります(特別受益を控除した残額がゼロまたはマイナスになるときは、特別受益者の相続分はゼロとなります。以上民法903条1項、2項)。
(2)寄与分
共同相続人中に、被相続人の事業に関する労務の提供または財産上の給付、被相続人の療養看護その他の方法により被相続人の財産の維持または増加につき特別の寄与をした者があるときには、その「寄与分」の額は相続財産から控除して寄与者に相続分の一部として分与され、残りの財産を相続財産とみなして法定相続分に従い分割されます(民法904条の2)。
なお、寄与分の額は原則として共同相続人中の協議によりこれを定めますが、協議がまとまらない場合、または協議をすることができないときは、家庭裁判所への遺産分割請求とあわせて、寄与分の額を定めることを請求することができ、この場合の寄与分の額は、寄与の時期、方法及び程度、相続財産の額その他一切の事情を考慮して定められますが、寄与分の額は相続開始時における被相続人の財産から遺贈の額を控除した額を超えることはできないとされています。
特別受益の詳細については第3部の8を、寄与分の詳細については第3部の9を参照してください。
8 相続分は、被相続人が遺言によって任意に決めることができますが、被相続人によって生計を維持されていた相続人を保護するために、一定の範囲の相続人には「遺留分」という権利が与えられています。
遺留分とは、相続人である被相続人の配偶者、子(その代襲相続人を含む)及び直系尊属に対して認められている、いわば相続分の最低保障です(兄弟姉妹には遺留分は認められないことに注意してください)。
被相続人は、遺言により、自分の遺産を原則として自由に処分することができますが、遺留分に関する規定に反することはできないとされています(民法902条1項ただし書、903条3項、964条ただし書)。もっとも、相続人の遺留分を侵害する内容の遺言を書いても、それ自体が無効になるわけではありませんが、遺言によって遺留分を侵害された相続人は、「遺留分減殺請求権」を行使することにより、自己の遺留分を確保することができます。
遺留分の割合は、
(1) 直系尊属のみが相続人であるときは、被相続人の財産の3分の1
(2) その他の場合には、被相続人の財産の2分の1
となっています(遺留分の詳細については第3部の12参照)。
通常、遺留分は「法定相続分の半分」と覚える人が多いのですが、相続分の計算の基礎となる相続財産と、遺留分の計算の基礎となる「被相続人の財産」には算定方法に若干違いがあることと、直系尊属のみが相続人となるときは遺留分は3分の1になる(配偶者と直系尊属が相続人となるときは、直系尊属の遺留分も原則どおり2分の1になることに注意)ので、上記のような覚え方には若干問題があります。
9 相続人となるべき者がいない場合、または相続人となるべき者が全員相続を放棄した結果相続人がいなくなった場合は、相続財産は法人となり、家庭裁判所が選任した相続財産管理人が相続財産の清算をすることになります(詳細は第3部の13参照)。
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