相続の総合案内   03−3589−4905
第3部 相続等に関するQ&AT Q&AUへ
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1 相続の開始
Q1−1 相続は被相続人の死亡により発生するということですが、被相続人が死亡したかどうかはっきり分からない場合は、相続は発生しないのですか?
A1−1 被相続人がはっきり死亡したと分からない場合でも、次のような場合には相続が発生することがあります。
1 認定死亡(戸籍法89条・91条)
水難、火災その他の事変によりある人が死亡したはずであるが、死体が発見されないなどという場合に、官公署がその人を死亡したものと認定し、その人の死亡地の市町村長に死亡の報告をすることがあります。
この場合、認定を受けた人は官公署の認定した日時に死亡したものとして扱われ、そのとき認定を受けた人を被相続人として相続が発生します(もっとも、この制度は認定を受けた人が確実に死亡していることを前提としているので、厳密には上記の例外ではありません)。
2 普通失踪(民法30条1項、31条)
ある人が行方不明になり、7年間以上生死不明の状態が続いているときは、利害関係人の請求により、その人に対し家庭裁判所が「失踪の宣告」をすることがあります。この宣告があると、宣告を受けた人は生死不明となってから7年を経過したときに死亡したとみなされ、そのときに宣告を受けた人を被相続人として相続が発生します。
3 特別失踪(民法30条2項、31条)
ある人が戦争、船舶の沈没その他の危難に遭遇し、その危難が去って1年経過してもその人の生死が明らかでないときは、(2)と同様に家庭裁判所が「失踪の宣告」をすることがあります。この場合、宣告を受けた人はその危難が去ったときに死亡したものとみなされ、そのときに宣告を受けた人を被相続人として相続が発生します。
 
Q1−2 私の父と母が同じ飛行機事故で死亡したのだけど、どちらが先に死亡したかわかりません。このような場合は法律上どのように扱われるのですか?
A1−2 このように、数人が死亡しどちらが先に死亡したか分からない場合は、同時に死亡したものと推定され(民法32条の2)、その死亡した人の相互間では相続は発生しません。たとえば、設問のように父母が同時に死亡したと推定される場合には、父母の間では相続が発生しないので、原則としてその子供だけが父母両方の推定相続人となります。
 
2 相続の対象(相続財産)
Q2−1 私の父親は、先日死亡しましたが、個人事業をしている友人の債務の保証人になっていました(なお、保証限度額の定めはありません)。私が父親の相続人になると、その友人の保証債務も承継してしまうことになってしまうのでしょうか?
A2−1 保証限度額の定めがない包括的根保証契約は、被相続人と主債務者との間の個人的な信頼関係に基づく債務であること、及びその相続を認めると相続人が極めて不安定な立場に置かれてしまうことから、被相続人の一身に専属する債務であるとして、相続の対象にはならないというのが判例・通説です。
したがって、あなたが父の相続人となっても、友人の保証債務まで承継することはありません。
ただし、根保証契約であっても、保証限度額の定めがあるものは相続の対象になりますので注意してください。
 
Q2−2 生命保険金や死亡退職金も相続の対象になるの?
A2−2 被相続人の死亡によって受給権が発生した生命保険金や死亡退職金の請求権は、被相続人の死亡後にはじめて発生するものであり、相続開始のときにおける「被相続人の財産」ではありませんから、相続の対象ではなく、受取人の固有財産として扱われます(ただ、A8−3で述べるように、例外的に特別受益に準ずるものとして考慮される可能性はあります)。
 
Q2−3 墓石、墓地、仏壇、位牌などの祭祀財産や、遺骨などは相続の対象になるの?
A2−3 系譜、祭具(仏壇、位牌等)、墳墓(墓石・墓地)といった祭祀財産(祭祀供用物)の所有権は、相続の対象とはされておらず、慣習により祖先の祭祀を主催すべき者がこれを承継することになっています(民法897条1項)。
遺骨については、大正時代に相続人に帰属するとした大審院の裁判例がありますが、この判決は現在ではほとんど支持されておらず、祭祀財産に準じて祭祀主催者に承継されるというのが現在の判例・通説になっています。
なお、祖先の祭祀に関する慣習が明らかでないときは、家庭裁判所が祭祀財産等を承継すべきものを定めるものとされています(同条2項)。
 
3 相続人
Q3−1 被相続人の孫や甥、姪が相続人になることはありますか?
A3−1 推定相続人(被相続人の直系尊属を除く)が相続開始時に死亡しているとき、相続欠格事由にあたるとき、または廃除されているときは、その子が推定相続人に代わって相続人となります(民法887条2項、889条2項。
これを「代襲相続人」といいます)。よって、被相続人の子が既に死亡しているなどの場合には、その子である孫が代襲相続人となり、被相続人の兄弟姉妹が推定相続人である場合に、その兄弟姉妹が既に死亡しているなどの場合には、その子である甥や姪が代襲相続人となります。
なお、代襲相続人である孫が相続開始時に死亡しているとき、相続欠格事由にあたるとき、または廃除されているは、その子である曾孫が代襲相続人になります(民法887条3項)が、甥や姪の子が代襲相続人になることはありません。
 
Q3−2 被相続人が死亡したとき、その妻が被相続人の子を妊娠していたのですが、この場合の胎児は相続人になれますか?
A3−2 胎児は、相続については既に生まれたものとみなされる(民法886条1項)ので、相続人となることができます。ただし、胎児が死体で生まれたとき(死産、流産、人工妊娠中絶など)には、相続開始時に遡って相続人ではなかったものとされます(同条2項)。
 
Q3−3 被相続人の養子、養父母などは相続人になりますか?
A3−3 被相続人の養子は実子と同様に、養父母は実の父母と同様に推定相続人になりますが、これは戸籍法に基づき養子縁組の届出をした場合に限られ、届出のない事実上の養子や養父母は相続人になれません。
 
Q3−4 私の兄が昨年死亡しました。兄に妻子はなく、両親は既に亡くなっていますので、相続人となるのは私と妹の2人になると思っていました。
ところが、戸籍を調べてみると、父親に養子が1人いることが発覚しました(その子は、母の養子にはなっていません)。この場合に、父親の養子にも相続分はありますか? あるとしたら、法定相続分はどのようになりますか?
A3−4 養子縁組をすると、養子と養親及びその血族との間には、養子縁組の日から血族間と同様の親族関係を生じます(民法727条)ので、その父親の養子もあなたの兄の兄弟姉妹とみなされ、兄の相続人の1人になります。ただし、兄の母親とは養子縁組をしていないということですので、その父親の養子は半血の兄弟姉妹ということになり、その相続分は他の兄弟の2分の1になります。
よって、法定相続分は、あなたと妹が各5分の2、父親の養子が5分の1ということになります。
 
Q3−5 私の夫は、勤務先の会社の社長に非常に気に入られて、将来の会社の後継者として社長の養子になっていたのですが、昨年末に交通事故で亡くなってしまい、夫の養父である会社の社長もその直後に病死してしまいました。
夫と私の間には、夫が社長と養子縁組をする前に生まれた子(A)と、養子縁組後に生まれた子(B)がおり、社長の配偶者は既に死亡しており、社長に実子や他の養子はなく、社長の遺言もありません。この場合、社長の相続人は誰になるのでしょうか?
A3−5 養子縁組をすると、養子と養父の血族間には親族関係が生じますが、養父と養子の血族間には、当然に親族関係は生じません。
よって、養子縁組以前に生まれた子(A)については、法律上被相続人である社長の直系卑属ではないことになりますので、あなたの夫の相続分を代襲相続することはできず(民法887条1項但書)、一方でBは養子縁組後に産まれた子供ですので法律上社長の直系卑属として扱われ、夫の相続分を代襲相続することができます。
よって、ご質問のような状況の下では、Bが社長の唯一の相続人になると解されます。
 
Q3−6 推定相続人でも、相続人となれない場合はありますか?
A3−6 推定相続人が相続欠格事由にあたるとき、または廃除されているときは、相続人となることができません。
相続欠格事由は、民法891条で以下のように規定されています。
1 被相続人、または相続について先順位若しくは同順位にある者を故意に死亡するに至らせ、又は至らせようとしたために、刑に処せられた者
2 被相続人の殺害されたことを知って、これを告発せず、または告訴しなかった者(その者に是非の弁別がないとき、または殺害者が自己の配偶者又は直系血族であったときを除く)
3 詐欺又は強迫によって、被相続人が相続に関する遺言をし、これを取り消し、またはこれを変更することを妨げた者
4 詐欺又は強迫によって、被相続人に相続に関する遺言をさせ、これを取り消させ、またはこれを変更させた者
5 相続に関する被相続人の遺言書を偽造し、変造し、破棄し、または隠匿した者
 
Q3−7 「廃除」とは何ですか?
A3−7 「廃除」とは、推定相続人(兄弟姉妹及びその代襲相続人を除く)のうちに財産を相続させたくない者がいる場合に、被相続人となる者が、生前にその推定相続人を相続人から除外することができる制度です。
推定相続人の廃除は、全く自由にできるわけではなく、その推定相続人が被相続人となる者を虐待し、若しくはこれに重大な侮辱を加え、又は推定相続人にその他の著しい非行があった場合に限られ、また廃除の効力が生ずるには家庭裁判所に対し廃除の請求をし、それが認められることが必要になります(民法892条)。
なお、廃除の意思表示は遺言でもすることができ、その場合はその遺言が効力を生じた後に、遺言執行者が被相続人に代わり家庭裁判所に廃除の請求をすることになります(民法893条)。
 
Q3−8 兄弟姉妹やその代襲相続人を廃除できないのはなぜですか?
A3−8 兄弟姉妹には遺留分(後述)がないので、廃除の手続きを取らなくても遺言でその人の相続分をゼロにしてしまえば、その目的は十分達成されるからです。
 
Q3−9 従兄弟(従姉妹)やその他の親族は相続人になれないのですか?
A3−9 日本の法律では、いかなる場合も相続人にはなれません。ただし、被相続人が日本国籍を有せず法例26条により日本の民法が適用されない場合は、適用される外国法によっては従兄弟(従姉妹)やその他の親族が相続人になることもあり得ます。
 
Q3−10 実は伯母が亡くなりまして、その夫は3年前に他界し、子供もおらず、私の父も既に亡くなっていたので、私と弟が伯母の相続人だと思っておりましたが、調べてみると、祖父が生前1人の女性を養子にしていました。その方にも、伯母の相続権があるのでしょうか?
A3−10 3−4の事例と同様,養子縁組をすると,養子と養親及びその血族との間には,養子縁組の日から血族間と同様の親族関係を生じます(民法727条)ので,その祖父の養子もあなたの伯母の兄弟姉妹とみなされ,伯母の相続人の1人になります。
 
Q3−11 私には3歳の息子が1人おります。この子の父親はさる一流企業の取締役で大金持ちでしたが、既に妻子持ちで、私とは数回関係を持っただけで終わってしまい、息子の認知もしてもらえないまま先月亡くなってしまいました。
この状態で、私の息子は父親の財産を相続できるのでしょうか? もし認知が必要な場合、既に父親が死亡しているので、息子が認知をしてもらえる可能性はないのでしょうか?
A3−11 認知されていない子は、民法上は子であるとはみなされませんので、相続権を取得するためには、父親に認知してもらうか、父を被告として認知請求の訴えを提起し、勝訴する必要があります。
父親が子を認知しないまま死亡した場合には、死亡の日から3年以内であれば、その子、その直系卑属またはこれらの者の法定代理人は、子の普通裁判籍(住所地等)を管轄する地方裁判所において、検察官を被告として認知の訴えを提起することができます(民法787条、人事訴訟手続法2条3項、29条の2、27条)。
なお、この場合には、子の住所地等を管轄する地方検察庁の検事正を被告とするのが実務上の取り扱いです。
 
Q3−12 私の夫は先月亡くなりましたが、夫の元愛人が、自分の息子は夫との子であるといって、検察官を被告にして認知の訴えを起こしたと聞きました。
夫はさる一流企業の元取締役で大金持ちだったので、たぶんお金目当てで訴訟を起こしたのでしょうが、私たちとしてはあんな女に夫の遺産を取られるのは納得いかないので、到底的に争いたいと思います。私たちは、検察官が被告になっている認知請求訴訟に参加することができるでしょうか?
A3−12 子の死後認知請求の訴訟において、父親の配偶者その他の相続人は当事者ではありませんが、訴訟の利害関係人であることは明らかなので、補助参加(民事訴訟法42条)をすることができます。補助参加をした者は、当事者の一方を補助するため、攻撃防御方法の提出(法律上の主張及び証拠の提出)や異議の申し立てなど一切の訴訟行為をすることができます。
 
Q3−13 死後認知請求訴訟に検察官側で補助参加しましたが、第1審では残念ながら敗訴してしまいました。担当の検察官は控訴しないと言っていたので、私の名前で控訴状を提出したのですが、控訴は不適法だといわれて却下されてしまいました。民事訴訟法45条1項には、補助参加人は上訴の提起もできると書いてあるのに、なぜ控訴できないのですか?
A3−13 死後認知請求訴訟の場合、判決効が第三者にも及ぶとされている(人事訴訟手続法18条、32条)ことから、認知請求の認容判決に対し検察官が控訴期間内に控訴せず、検察官との間で第1審判決が確定した時点で、認知の効力はあなたを含めた関係者全員について確定してしまいます。したがって、上訴の利益がないという理由で却下されたのでしょう。
この点は、現行の人事訴訟手続法の問題点の1つですが、同法に代わる新法として制定される予定の人事訴訟法(仮称)では、この点についての改正は特になされないようです。
 
Q3−14 おかげさまで、息子の死後認知請求では勝訴しましたが、息子の父親の正妻やその子供たちは、遺産分割の交渉を持ちかけても全く取り合ってくれません。父親の遺産はたくさんあるのだろうとは思いますが、具体的にどのような財産があるのか、遺言があるのかどうかもよく分かりません。このような場合、どのような法的手段がありますか?
A3−14 遺言の有無や遺産の内容が具体的に分からないのであれば、とりあえず家庭裁判所に遺産分割調停の申立をされるのが一番よいと思われます。家庭裁判所では、調停や審判に関する事実関係について、家事審判官(裁判官)の職権により家庭裁判所調査官が調査をしてくれますので、その過程で遺産の内容なども明らかになる可能性が高いでしょう。
 
Q3−15 亡くなった夫の愛人が、息子の代理人として死後認知請求の訴えを提起し、私たちは徹底的に争いましたが、負けてしまいました。その後、夫の愛人が息子の代理人として遺産分割の調停を申し立て、私たちに対して、夫が愛人に一時住まわせていたマンションの部屋をよこせと要求しています。
でも、夫の遺産分割協議は私と子供たちの間で既に成立済みで、そのマンションの部屋は私の次男が相続することに決まっています。それなのに、あの女の主張するように遺産分割協議をやり直さなければならないのでしょうか? また、あの女の息子には夫の遺産であるマンションの部屋を要求する権利があるのでしょうか?
A3−15 遺産分割協議があなたとその子供たちの間でまとまっていても、その愛人の子が亡夫の息子として裁判上認知されてしまった以上、その息子が参加していない遺産分割協議は、共同相続人全員が参加していないものとして民法上の無効原因がありますので、遺産分割協議のやり直しには応じなければならないものと考えられます。
ただし、死後認知請求により相続人となった者が遺産の分割を請求する場合において、他の共同相続人が既に分割その他の処分をしているときは、その相続人は価額による支払の請求権しか認められていませんので(民法910条)、マンションなど金銭以外の財産そのものを要求する権利はありません。その息子に対しては、他の共同相続人が共同で、法定相続分に応じた価額の現金だけを渡せばよいということになります。
 
Q3−16 私の父は6年前に亡くなり、母は既に亡くなっていましたので、私を含め兄弟4人が相続人になりました。ところが、私の兄(長男)が「父は、その財産をすべて自分に相続させるという遺言書を書いていた」と主張し、その旨を記した平成5年10月17日付けの父の自筆証書遺言を出してきたので、私を含めた他の兄弟は、とりあえずそれで納得しました(当時、私たちに遺留分減殺請求権という権利があるということは知りませんでした)。
ところが、最近私が父の書斎を整理していたら、平成5年10月21日付けで、「私が平成5年10月17日付けでした遺言は、長男に強制的に書かされたものなので、これを取り消す」と記した父の自筆証書遺言が発見されました。このような場合、遺留分減殺請求権が時効にかかっている以上、私たちには何もできないのでしょうか?
A3−16 このような場合には、長男に全財産を相続させるという遺言は効力がないということになりますので、たとえ遺留分減殺請求権が消滅時効にかかっていても、長男に対する法的手段がなくなるわけではありません。
このような場合の法的手段はいろいろあり、法定相続分に基づく長男が相続した個別財産の引き渡しや不動産の持分移転登記を請求する、相続回復請求権を行使するなどの方法もありますが、一般的にはまず家庭裁判所に遺産分割調停の申し立てをするのが最も妥当な方法だと思います。
なお、10月17日付けの遺言が長男によって「強制的に書かされた」というのが事実であれば、その長男は相続欠格事由(民法891条4号)にあたりますので、その長男に子供がいなければ、長男の相続分はなくなり、父親の遺産は長男以外の兄弟だけで分割できることになります。
 
Q3−17 (Q3−16の続き)先日アドバイスを頂いたとおり、家庭裁判所に遺産分割の調停を申し立てたのですが、問題の兄(長男)は、父に対し強制的に遺言を書かせたことは認めたものの、「父の相続に関しては、既に相続回復請求権の時効(民法884条、5年)が成立しているので、自分には相続財産を引き渡す義務はない」と主張してきました。このような理屈は成り立つのですか?
A3−17 そんな屁理屈は、もちろん成り立ちません。
判例(最判昭和53年12月20日民集32−9−1674)によると、民法884条(相続回復請求権)の時効の利益を享受できる者は、自らが相続人でないことを知らず、かつ自らが相続人であると信ずべき合理的理由があって、相続人であると称し相続財産の一部または全部を占有管理していた者(善意無過失の表見相続人)に限られるので、自ら父に対し強迫により遺言をさせた長男は悪意の表見相続人であり、民法884条による時効の主張は主張自体失当ということになります。
なお、遺産分割請求権は物権的請求権であると解されていることから、基本的に消滅時効にかかることはなく、例え兄が相続財産について20年の取得時効(民法162条1項)を援用したとしても、それにより遺産分割請求を拒むことはできないと解されています(もっとも、このような事由があることを知りながら長年にわたってそれを放置し、数十年後に突然遺産分割調停を申し入れたような場合には、そのような請求は権利の濫用であるとして排斥される可能性もないわけではありません)。
 
4 相続分
Q4−1 非嫡出子の相続分は、なぜ嫡出子の2分の1なのですか? そのような差別は、憲法違反ではないのですか?
A4−1 確かに、憲法違反とする学説もありますが、最判平成7年7月5日民集49−7−1789は、非嫡出子の相続分を嫡出子の2分の1とした民法900条4号の規定は、立法府に与えられた合理的な裁量判断の限界を超えたものということはできないという理由で、憲法14条1項に違反するとはいえない、と判示しています。
最高裁の判断の根底にあるのは、おそらく配偶者がいる被相続人名義の財産は、実質的には被相続人とその配偶者が共同で築き上げたものであり、その相続権については、被相続人の配偶者の利益も考慮すべきであるという考え方だと思われ、それ自体に合理性がないとはいえないと思われます。
しかし、この非嫡出子に関する規定は、現在でも最高裁判所でたびたびその合憲性が争われており、違憲説を支持する裁判官も相当数いるようですので、上記判例の立場が今後も維持されるとは限りません。また、上記規定は、場合によっては立法者の想定していない不平等な事態を引き起こす可能性もあるので、非嫡出子に関する問題は、立法論も含め今後も検討されるべき課題であると考えられます。
 
Q4−2 保険契約で、死亡保険金の受取人を「相続人」と指定したのですが、この場合の死亡保険金は、法定相続分が適用されますか?
A4−2 死亡保険金の受取人を「相続人」と指定した場合は、特段の意思表示がない限り、民法の法定相続分の割合に従って受け取るとされています(最判平成6年7月18日民集48−5−1233、最判昭和48年6月29日民集27−6−737)。
その理由は、死亡保険金は相続財産ではないものの、受取人が民法上の相続人とされ、相続人となるべき者が数人いるときは、法定相続分の割合に従って受け取るものと解するのが保険契約者の通常の意思に合致し、かつ合理的である、というものです。
一方、保険契約者の指定がなく、法律または約款の定めにより被保険者の法定相続人が保険金受取人となる場合については、民法427条の規定により各人平等割合で受け取ると解されているようです(最判平成4年3月13日民集46巻3号188頁、最判平成5年9月7日民集47巻7号4740頁)。
もっとも、最近の保険会社の約款では、紛争防止のために相続人が複数いる場合の受取割合をあらかじめ定めているところが多く、そのほとんどは法定相続分によるのではなく、単純に均等の割合で受け取るものと定めています。
なお、『FPジャーナル』2002年10月号の42ページによると、生命保険会社の保険約款に定めのある相続人の保険金受取割合は以下のとおりです。
<受取割合を「均等」と定めているもの>
あいおい、アクサ、朝日、アメリカンファミリー、アリコ、AIGスター、共栄火災しんらい、クレディ・スイス・セゾン、GEエンジン、ジブラルタ、スカンディア、住友、第一、大同、太陽、T&Dフィナンシャル、東京海上あんしん、日動、ハートフォード、ピーシーエー、富国、富士、プルデンシャル、マスミューチアル、マニュライフ、三井住友海上きらめき、三井、明治、安田火災ひまわり、安田、大和、ING
<受取割合を「相続割合」と定めているもの>
オリックス、チューリッヒ、DIY、日本興亜、日本
<受取割合を「平等」と定めているもの>
ソニー
 
Q4−3 遺族年金等の受け取りには、法定相続分が適用されますか?
A4−3 遺族年金等は、A2−2で述べたのと同じ理由で、相続財産ではなく受給権者の固有財産と解釈されますので、法定相続分は適用されず、受給権者は個別の法律等によって定められています。以下にその主な例を紹介します。
1 国民年金法による遺族基礎年金の場合
受給権者は、被保険者の死亡の当時その者によって生計を維持されていた者のうち、第1順位が被保険者の「子のある妻」、第2順位が「子」です(国民年金法37条の2)。
ここでいう「子」とは、被保険者の子のうち18歳に達する日以後の最初の3月31日までの間にある(つまり、通常高等学校を卒業するときまで)か、20歳未満であって障害等級1級または2級に該当する障害の状態にある者であり、かつ現に婚姻をしていない者をいいます(以下、これを「年金上の子」といいます)。
また、「子のある妻」は、年金上の子と生計を同じくしている妻であって、被保険者と法律上の婚姻をしていていなくても、事実上婚姻関係と同様の事情にあれば「妻」と認められます。
なお、上記の要件により遺族基礎年金を受け取れる遺族がいない場合、一定の要件のもとに寡婦年金や死亡一時金が支給される場合があります(第1部の6にも若干説明があります)。
2 厚生年金保険法による遺族厚生年金の場合
受給権者は、被保険者の死亡の当時その者によって生計を維持されていた者のうち、第1順位が配偶者(内縁関係を含むが、夫の場合は55歳以上に限る)、第2順位が年金上の子、第3順位が55歳以上の父母、第4順位が孫(年金上の子と同様の要件を満たす者に限る)、第5順位が55歳以上の祖父母です(厚生年金保険法59条)。
3 労働者災害補償保険法による遺族(補償)年金の場合
受給権者は、労働者の死亡の当時その者によって生計を維持されていた者のうち、第1順位が配偶者(内縁関係を含むが、夫の場合は60歳以上に限る)、第2順位が子(18歳に達する日以後の最初の3月31日までの間にあるか、一定の障害の状態にある者に限る)、第3順位が父母(60歳以上であるか、一定の障害の状態にある者に限る)、第4順位が孫(子と同じ要件を満たす者に限る)、第5順位が祖父母(父母と同じ要件を満たす者に限る)、第6順位が兄弟姉妹(子と同じ要件を満たす者に限る)です(労働者災害補償保険法16条の2、22条の4第3項)。
なお、上記の要件により遺族(補償)年金を受け取れる遺族がなく、またはいなくなった場合には、一定の要件のもとに遺族(補償)一時金が支給される場合があります。
各年金等の受給要件、失権事由などの詳細については、各地の社会保険事務所または社会保険労務士にお問い合わせください。また、上記のいずれにも該当しない国家公務員等の共済組合、私立学校教職員共済、確定拠出年金、各種企業年金等による給付については、当該共済等の実施団体にお問い合わせください。
 
Q4−4 私は、10年ほど前からある妻子持ちの男性と同棲するようになり、その男性との間に2人の子をもうけています。
その男性は、私と同棲する前から正妻とは別居状態にあり、再三にわたり正妻と離婚の話し合いをしましたが、正妻がどうしても離婚に応じてくれず、また破綻の原因は男性側の浮気(相手は私ではありません)にあったことから離婚訴訟に踏み切ることもできず、結局戸籍はそのままになっていましたが、私と同棲するようになって以来、その男性は正妻の家には一度も行っていません(なお、その男性と正妻との間には子供はいません)。
その男性は先月病気で亡くなったのですが、私は戸籍上の妻ではないのでその男性の遺産はもらえないとしても、内縁の妻として遺族年金(遺族基礎年金及び遺族厚生年金)を受給することはできないでしょうか?
A4−4 年金上の配偶者は、A4−3で述べたように、必ずしも婚姻の届出をした者に限定されておらず、内縁の妻も事実上の配偶者として遺族年金の受給資格を得られることがあります。
設問のようなケースであれば、男性の死亡時においては既に正妻とは婚姻の実体がなく、あなたが年金上の配偶者であると認定される可能性が極めて高いと考えられますので、遺産は正妻に取られてしまうとしても、遺族年金はあなたが全額受給できると考えられます(同趣旨の判示をした判例もあります)。
 
5.遺言
Q5−1 自分の遺産は法定相続分とは違うやり方で分配してほしいので遺言を作ろうと思うのですが、遺言はどうやって作ればいいの?
A5−1 遺言は、民法960条以下に定める方式に従って作成しないと法律上の効力を認めてもらえないので、民法の定める以下のいずれかの方式にしたがって作成する必要があります。
1 自筆証書遺言(民法968条)
自筆証書遺言は、遺言者がその全文、日付及び氏名を自書し、これに印を押すことで作成します。
加除その他の変更をするときは、遺言者がその場所を指示し、これを変更した旨を付記して特にこれに署名し、かつ、その変更の場所に印を押さなければなりません。
<主な注意点>
●自筆証書遺言は、文字どおり遺言者が自分の手で(足などで字を書ける人はそれでも結構ですが)その全文を書く必要があり、ワープロ、パソコンなどで作成したもの、録音テープで肉声を録音したもの、ビデオテープ等に録画したもの等はいずれも自筆証書遺言としては無効とされます。ただし、遺言の全文、日付、署名をカーボン紙で複写して記載することは差し支えないとされています。
●遺言者が自筆証書遺言を作成するにあたり、他人の添え手による介助を受ける場合には、遺言者に自筆能力があり、遺言者は他人の支えを借りただけであり、かつ、他人の意思が介入した形跡がない場合に限り有効とされています。
●日付は、必ず作成した年月日を特定できるように記載しなければならず、例えば「平成15年4月吉日」などと記載された遺言は無効とされます(ただし、日付そのものを明記しなくても、「4月末日」とか「4月の第2月曜日」など、明らかに日付を特定できる記載であれば有効です)。
●氏名は、必ずしも戸籍上の氏名を記載する必要はなく、通称などでも明らかに遺言者を特定できるものであれば有効とされます(もっとも、通称を用いると遺言の効力をめぐって紛争が生じることが多いので、遺言書にはなるべく戸籍上の氏名を用いることをお勧めします)。
●印は、必ずしも実印である必要はなく、認印や拇印でも有効とされていますが、必ず遺言者本人の印でなければなりません。
●遺言書の保管者または遺言書を発見した相続人は、相続の開始を知った後、遅滞なくこれを家庭裁判所に提出し、その検認を受けなければならず、封印されている自筆証書遺言は、家庭裁判所で相続人またはその代理人の立ち会いのもとでなければ、これを開封してはなりません(民法1004条)。これに違反しても遺言の効力には影響しませんが、違反者は5万円以下の過料に処せられることがあります(民法1005条)。
●2人以上の者が1通の書面で遺言をすることは禁止されており(民法975条)、これに違反する遺言書は(自筆証書以外の遺言でも)すべて無効となりますので、遺言書は必ず1人ずつ個別に作成してください。
2 公正証書遺言(民法969条)
公正証書遺言は、証人2人以上の立ち会いのもと、遺言者が公証人に遺言の趣旨を口授し、公証人が遺言者の口授を筆記してこれを遺言者及び証人に読み聞かせまたは閲覧させ、遺言者及び証人が筆記の正確なことを承認した後各自これに署名押印し、公証人がこの証書は民法969条1号ないし4号に掲げる方式に従って作ったものを付記してこれに署名押印することで作成します。
遺言者が署名することができない場合は、公証人がその事由を付記することで署名に代えることができます。
遺言者が口のきけない者である場合は、遺言者が公証人及び証人の前で、遺言の趣旨を通訳人の通訳により申述し、またはこれを自書することで口授に代えることができ、この場合の遺言者または証人が耳の聞こえない者であるときは、公証人が筆記した遺言の趣旨の内容を通訳人の通訳により遺言者または証人に伝えることで読み聞かせに代えることができますが、この方式により遺言書を作成した場合は、公証人はその旨を証書に付記しなければなりません(民法969条の2)。
<主な注意点>
●未成年者、推定相続人や受遺者本人若しくはその配偶者、直系血族、または公証人の配偶者、4親等以内の親族、書記若しくは雇い人は証人となることができないとされている(民法974条)ほか、その他遺言の特別な利害関係人が証人になっていると遺言の効力が争われるおそれがありますので、証人は血縁や利害関係のない友人か、弁護士や司法書士等に依頼するのがよいでしょう。
●口授は、必ずしも遺言者が遺言書の全文を述べる必要はなく、遺言者があらかじめ物件目録を用意し、どの物件は誰にと述べた上で、証書には物件目録のとおり記載するようにと述べた場合、公証人があらかじめ原稿を作成しておき、遺言者の口授を聞いた後に原稿を遺言者に読み聞かせ間違いないことを確認した場合、遺言者が先に遺言書の原稿を作って公証人に渡し、これに従って公証人が遺言書を作り、遺言者は遺言の趣旨は前に交付した書面のとおりだとのみ口授した場合などでも有効とされた判例がありますが、単に遺言者が公証人の質問に対しうなずいたり首を振ったりしただけでは「口授」したことにはならず、遺言書は無効となります。
●遺言者及び証人の押印は、原則として認印でも構いませんが、公証人役場によっては実印を要求しているところもあります。
●公正証書遺言の場合は、家庭裁判所の検認は必要ありません(民法1004条1項ただし書)。
3 秘密証書遺言(民法970条)
秘密証書遺言は、遺言者が遺言書(自書する必要はなく、他人が書いたものでもよい)に署名押印し、その証書を封じて証書に用いた印章で封印し、公証人及び証人2人以上の前に封書を提出して、自己の遺言書である旨及び遺言書を書いた者の住所・氏名を申述し、公証人がその証書を提出した日付及び遺言者の申述を封紙に記載し、遺言者、公証人及び証人が封紙に署名押印することで作成します。
遺言者が口がきけない者である場合には、公証人及び証人の前で上記の申述すべき事項を通訳人の通訳により申述するか、または自書することで申述に代えることができますが、この場合は公証人が封紙にその旨を記載しなければなりません(民法972条)。
秘密証書遺言がその方式を満たさず無効とされる場合でも、遺言書が自筆証書遺言の要件を満たしている場合には、自筆証書遺言として有効とされます。
<主な注意点>
●遺言書を加除訂正する場合には、自筆証書遺言と同じ方式によらなければなりません。
A 証人については、自筆証書遺言の注意点?@と同様です。
B 遺言者及び証人の押印については、公正証書遺言の注意点?Bと同様です。
C 秘密証書遺言は、自筆証書遺言と同様に家庭裁判所の検認が必要であり、また開封するには封印された自筆証書遺言と同様の手続きが必要です。
以上が普通の方式による遺言ですが、そのほかにも緊急時の場合にのみ認められる特別の方式による遺言もあります。これらの特別方式による遺言(下記4から7の遺言)は、いずれも遺言者が普通の方式による遺言ができるようになったときから6ヶ月以上生存した場合には、その効力は否定されます(民法983条)。また、いずれも相続開始後に家庭裁判所の検認が必要とされていることにも注意が必要です。
4 死亡危急者遺言(民法976条)
死亡危急者遺言は、疾病その他の事由によって死亡の危急に迫った者が遺言をしようとする場合にのみすることができる方式で、一般臨終遺言とも呼ばれます。
死亡危急者遺言は、3人以上の証人の立ち会いのもとで、遺言者がその1人に遺言の趣旨を口授します。その口授を受けた者は、これを筆記して遺言者及び他の証人に読み聞かせまたは閲覧させ、各証人がその筆記の正確なことを承認した後、これに署名押印しなければなりません。
口のきけない遺言者については、遺言の趣旨を通訳人の通訳により申述することで口授に代えることができ、耳の聞こえない遺言者または証人については、通訳人の通訳により筆記の内容を伝えることで読み聞かせに代えることができます。
証人の署名押印については、代書は許されず、また原則として遺言者の生前になされる必要がありますが、遺言者が死亡した後の署名押印であっても、その署名押印が筆記内容に変改を加えた疑いのはさむ余地がない場合には有効とした判例があります。
死亡危急者遺言は、遺言の日から20日以内に、証人の1人または利害関係人から家庭裁判所に確認の請求をし、家庭裁判所がそれを遺言者の真意に基づくものであるとの心証を得てこれを確認しなければ、その効力は認められません。
5 伝染病隔離者の遺言(民法977条)
伝染病隔離者の遺言は、伝染病のため行政処分によって交通を断たれた場所にある者のみすることができる遺言です。
伝染病隔離者の遺言は、遺言者が警察官(警部補以上の者に限られ、司法巡査は含まれないとするとのが通説です)1人及び証人1人以上の立ち会いのもとで遺言書を作ることにより行います。この場合、遺言者、警察官及び証人は遺言書に署名押印しなければなりませんが、署名押印をすることができない者がいるときは、証人がその旨を付記して署名押印に代えることができます(民法980条、981条)。
証人については、公正証書遺言の注意点と同様です。
6 在船者の遺言(民法978条)
在船者の遺言は、船舶(航海に従事する船舶に限られ、河川航行の船舶や櫨櫂だけで運行する小舟は含まれません)中にある者のみすることができる遺言です(航海中である必要はなく、港湾碇泊中でもよいとされています)。
作り方は、船長または事務員1人及び証人2人以上の立ち会いが必要なほかは、伝染病隔離者の遺言と同様です。
7 船舶遭難者の遺言(民法979条)
船舶遭難者の遺言は、遭難した船舶中にある者で、かつ死亡の危急に迫った者のみすることができる遺言です。難船臨終遺言とも呼ばれます。
船舶遭難者の遺言は、証人2人以上の立ち会いをもって、遺言者が口頭または通訳人の通訳によって行います。証人は、その趣旨を筆記して各自これに署名押印し(読み聞かせは必要ありません)、かつ、証人の1人またはその利害関係人が遅滞なく家庭裁判所に確認の請求をし、家庭裁判所がそれを遺言者の真意に基づくものであるとの心証を得てこれを確認しなければ、その効力は認められません。
 
Q5−2 「自筆証書遺言」「公正証書遺言」「秘密証書遺言」には、それぞれどのようなメリット・デメリットがありますか?また、お勧めなのはどの方式ですか?
A5−2 各方式のメリット・デメリットは、概ね以下のとおりです。
1 自筆証書遺言
<メリット>
● 証人も不要で、いつでも作成できる。
● 遺言書の存在・内容を秘密にできる。
● 費用がほとんどかからない。
<デメリット>
● 要件が厳格なため、法律の知識が乏しい遺言者が作成すると、些細な形式違反で無効にされ、またはその内容の解釈をめぐって紛争が生じるおそれが高い。
● 遺言書が紛失したり(若しくは発見されないまま遺産分割が行われたり)、改ざんされる危険性が高い。
● 遺言書の開封・執行には、家庭裁判所の検認手続きが必要である。
● 病気などで自筆できない人には作成できない。
2 公正証書遺言
<メリット>
● 紛失、改ざんの可能性がない。
● 家庭裁判所の検認が不要である。
● 遺言者が筆記できなくても作成可能である。
● 字検不備により無効とされる危険性がない。
<デメリット>
● 証人が2人以上必要で、作成手続きが煩雑である。
● 遺言書の存在及び内容を秘密にできない。
● 公証人の費用がかかる(A5−3参照)。
3 秘密証書遺言
<メリット>
● 内容を秘密にできる。
● 改ざんの可能性がない。
<デメリット>
● 証人が2人以上必要で、作成手続きが煩雑である。
● 遺言の存在を秘密にできない。
● 公証人の費用がかかる(A5−3参照)。
このうち、お勧めできるのは公正証書遺言です。
費用はかかりますが、紛失や改ざんの可能性がなく、遺言者の意思をもっとも確実に実現することが可能であること、遺言書の効力や内容について紛争が生じる可能性が最も低いこと、検認も不要であることから、一番安心できる方式だということができるでしょう。
ただ、公証人は遺言書の文案の書き方等についてまで具体的なアドバイスをしてくれるわけではないので、作成の際には弁護士等の専門家からアドバイスを受けることをお勧めします。
 
Q5−3 公正証書遺言や秘密証書遺言を作るときの公証人の費用はどのくらいかかりますか?
A5−3 公証人の費用は、遺言作成の場合下記の手数料がかかり、また公証人に遺言者の自宅や病院に来てもらう場合には、別途旅費や日当がかかります。
1 公正証書遺言の手数料
@ 通常の遺言(公証人手数料令9条、19条1項、32条、別表)
相続財産の価額 通常の手数料 病床加算手数料
100万円以下 16,000円 18,500円
100万円超200万円以下 18,000円 21,500円
200万円超500万円以下 22,000円 27,500円
500万円超1000万円以下 28,000円 36,500円
1000万円超3000万円以下 34,000円 45,500円
3000万円超5000万円以下 40,000円 54,500円
5000万円超1億円以下 54,000円 75,500円
1億円超1億5000万円以下 56,000円 84,000円
1億5000万円超2億円以下 69,000円 103,500円
2億円超2億5000万円以下 82,000円 123,000円
2億5000万円超3億円以下 95,000円 142,500円
3億円超10億円以下 95,000円に
超過額5000万円までごとに
11,000円を加算 左記金額の1.5倍
10億円超 24,9000円に
超過額5000万円までごとに
8000円を加算 同上
A 遺言の取り消し(公証人手数料令19条2項、17条ただし書、32条、別表)
相続財産の価額 通常の手数料 病床加算手数料
200万円以下 5,000円 7,500円
200万円超400万円以下 7,000円 10,500円
400万円超 11,000円 16,500円
2 秘密証書遺言の手数料(公証人手数料令28条、30条、32条)
原則として11,000円。ただし、
@ 病床加算手数料は16,500円。
A 嘱託人(遺言者)の請求により、夜7時から翌朝午前7時までに秘密証書遺言の作成手続きを行う場合は16,500円。
B Aに該当する場合の病床加算手数料は22,000円。
なお、前記1及び2における「病床加算手数料」とは、公証人手数料令32条により、公証人を嘱託者(遺言者)の病床に呼んで遺言書を作ってもらう場合に加算される手数料を含めた手数料の合計額のことです(通常の手数料と別個にかかるわけではありません)。
3 証書が4枚(横書きの証書の場合は3枚)を超えるとき
1枚ごとに250円を加算(公証人手数料令25条)。
4 公正証書の原本または謄本の交付手数料(公証人手数料令40条)
1枚につき250円。
5 公証人に出張を依頼する場合の旅費・日当
@ 旅費
交通費は実費。
宿泊を要する場合は、東京都区内・大阪・名古屋・横浜・京都・神戸市内その他財務省令で定める地域(甲地方)にあっては1夜につき14,800円、その他の地域(乙地方)にあっては1夜につき13,300円の宿泊費が別途かかります。
A 日当
1日2万円(ただし、4時間以内の場合は1万円)。
なお、手数料等の詳細については、最寄りの公証人役場までお問い合わせください。
 
Q5−4 遺言書では、どんなことを決めることができますか?
A5−4 遺言書に法的効力が認められているのは、以下の12項目です。
@ 戸籍に入っていない子の認知(民法781条2項)
A 未成年の子がいる場合の後見人、及び後見監督人の指定(民法839条1項、848条)
B 推定相続人の廃除、及び廃除の取り消し(民法893条、894条2項)
C 相続分の指定、または指定の委託(民法902条)
D 特別受益者の相続分に関する意思表示(民法903条3項)
E 遺産の分割方法の指定若しくは指定の委託、または遺産分割の禁止の指示(民法908条)
F 相続人間の担保責任の指定(民法914条)
G 遺贈の減殺方法の指定(民法1034条ただし書)
H 遺言執行者の指定、または指定の委託(民法1006条)、及び遺言執行者の報酬に関する定め(民法1018条1項ただし書)
I 包括遺贈及び特定遺贈(民法964条)
J 寄付行為(民法41条2項)
K 信託の設定(信託法2条)
よって、上記12項目のいずれにも該当しない事項を遺言書に記載しても、法的効力は認められません。たとえば、「私が死んだ後は、兄弟仲良く助け合い、喧嘩をしないように」、「私が死んだら、愛人の○○を、清掃婦でもいいから会社で使ってやってくれ」などという内容の遺言書を書いても、道義的な問題はともかく、法律上はそれらの記載は単なる遺言者の「お願い」に過ぎないので、相続人らがそれらの「お願い」に法的に拘束されることはありません。
ただ、上記12項目のいずれにも該当しない事項であっても、例えば相続人となる子が複数おり、その子らのうちに指定相続分がゼロまたは極端に少ない人がいる場合には、そのような指定をした理由も遺言書に明記しておくのが効果的です。
例えば「長女○○には、婚姻時に1,000万円を生前贈与しているので、何もやらない」とか、「三男○○は、暴走族や暴力団関係者との交流があり、また窃盗や覚せい剤の所持・使用等によって何度も刑務所に服役するなど非行が甚だしいので、遺産は何もやらない」などと書いておけば、遺言書の内容に合理性があるということで遺言者に正常な判断能力があったことの補強証拠にもなりますし、当該生前贈与や非行などの事実があったことの証拠にも使えます。
 
Q5−5 弁護士に相続の相談をしたら、弁護士が遺言のことを「ゆいごん」ではなく「いごん」と言っていましたが、これはなぜですか?
A5−5 遺言は通常「ゆいごん」と呼ばれますが、民法に規定されている「遺言」は社会通念上の遺言とは大きく異なり、A5−1で解説したように厳格な方式が要求され、さらにA5−4で解説したように特定の事項についてしか法律上の効果が認められていませんので、弁護士をはじめとする法律家の多くは、民法上の「遺言」のことを「いごん」と読み、社会通念上の遺言と区別しています。別に間違えているわけではないので、弁護士が「いごん」と言っていても驚かないでください。
 
Q5−6 遺言は、誰でもすることができますか?
A5−6 基本的に、満15歳に達した者であれば誰でも遺言をすることができ(民法961条)、家庭裁判所の審判により成年被後見人、被保佐人、または被補助人とされている人であっても遺言をすることは妨げられません(962条)。
ただし、遺言者は、遺言時に意思能力を有していなければならない(963条)ので、病気や痴呆などで意思能力の有無に疑問があるような人に遺言をしてもらうときは、事前に医師の診断を受けさせるなどして意思能力の有無を確認してもらうとよいでしょう。
また、成年被後見人が遺言をするには、次のA5−7で説明する特別な制限があります。
 
Q5−7 私の父は、重度の精神病にかかり家庭裁判所から後見開始の審判を受けていますが、このような場合でも遺言をすることができますか? また、遺言ができる場合には、どのような手続きが必要になりますか?
A5−7 家庭裁判所から後見開始の審判を受けた者(成年被後見人)でも遺言をすることはできます(この場合に後見人や後見監督人の同意等は必要ありません)が、遺言をするには意思能力が必要ですので、遺言をするときにおいて事理を弁識する能力を一時的に回復していることが前提となります。
このような場合に成年被後見人が遺言をするには、遺言の方式を問わず、医師2人以上が立ち会って、遺言書(秘密証書遺言にあってはその封紙)に、遺言者が遺言をする時において精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く状態になかった旨を付記して、各自署名押印しなければなりません(民法973条、982条)。
 
Q5−8 外国に住んでいる日本人が遺言を作りたいときはどうすればいいの?
A5−8 外国であっても、日本の領事が駐在する地であれば、日本人は領事が公証人の職務を行うことで公正証書遺言や秘密証書遺言を作ることができます(民法984条)。
また、日本の法律による方式でない遺言であっても、?@行為地法(遺言を作った場所の法律)、A遺言者が遺言の当時または死亡時に国籍、住所または条居所を有していた場所の法律、B不動産に関する遺言であって、その不動産の所在地における法律のいずれかに適合する方式の遺言であれば、その法律の適用が明らかに公の秩序に反するときでない限り、日本の法律上有効とされる(遺言の方式の準拠法に関する法律2条、8条)ので、その住んでいる国の弁護士等に依頼して当該外国法の方式に基づく遺言を作っても大丈夫です。
 
Q5−9 遺言書の「検認」について、具体的に教えてください。
A5−9 遺言書の検認をするには、まず遺言者の最後の住所地を管轄する家庭裁判所(家事審判法9条甲類34号、家事審判規則120条)に検認の申し立てをします。
検認の申し立ては書面または口頭でこれをすることができます(家事審判規則3条)が、検認をする遺言書の原本のほか、相続関係を証明するため原戸籍謄本、除籍謄本及び相続人全員の戸籍謄本を添付する必要があります(同2条)。
検認の申し立てを受けた家庭裁判所は、遺言の方式に関する一切の事実を調査した上で検認調書を作成し、検認に立ち会わなかった申立人、相続人受遺者その他の利害関係人に対し検認がされた旨を通知します(同122条〜124条)
なお、遺言書の検認は、遺言書の偽造や変造を防止するための一種の証拠保全の手続きであり、検認がされたからといって、遺言書の内容の実体法上の効力が確定するわけではありません。
検認の手続を経ないで遺言書を開封したりすると、5万円以下の過料に処せられることがありますが(民法1005条)、それによって直ちに遺言が無効になったりすることはありません。
 
Q5−10 一度した遺言を取り消したり、変更することはできますか?
A5−10 遺言の取り消しや変更は、遺言者の最終意思の保護という観点から、遺言の方式に従って何度でもすることが認められており(民法1022条)、相互に抵触する内容の遺言がある場合には、後の遺言で前の遺言を取り消したものとみなされ、また遺言者が遺言の内容と抵触する財産の処分その他の法律行為を行ったとき、若しくは遺言書や遺贈の目的物を故意に破棄したときは、当該行為によって遺言を取り消したものとみなされます(民法1023条、1024条)。
ただし、遺言の取り消しや変更も通常の遺言と同様の方式及び有効要件(事理弁識能力等)が要求されますので、これらの要件を満たさない遺言の取り消しや変更は当然無効とされます。
また、遺言の変更をあまりに頻繁に行い、遺言者の死後に相互に抵触する内容の遺言が大量に発見されたりすると、遺産分割等の際に混乱を来すおそれが高くなるので、取り消したい遺言書は自分で破棄しておいた方がよいでしょう。
 
Q5−11 私の父は、昨年の12月20日に亡くなりましたが、その直前である12月13日付けで父名義の公正証書遺言が作成されており、そこには「私の全財産は、長男○○に相続させる」と書かれていました。
しかし、父はその死の1年くらい前から重度の痴呆状態でかつ病床にあり、その死の1週間前に遺言を作れるほどの判断能力があったとは思えません。
現に、その公正証書にも父の署名捺印はなく、代わりに「遺言者は、病気のため署名捺印することができない」という公証人の付記がありました。
このような遺言でも法律的には有効なのでしょうか? また、このような場合、遺言の効力を争うには遺言無効確認の訴えを提起しなければならないのでしょうか?
A5−11 遺言者が署名押印していない遺言書でも、公正証書遺言では遺言者の署名に代えて公証人が署名できない旨を付記する方法が明文上認められていますので(民法969条4号ただし書)、その点で形式違反になることはありませんが、遺言者についてそのような事情があるのであれば、意思能力を欠く者がした遺言として法律上無効と判断される可能性は高いと考えられます。
なお、遺言の無効を主張するには、遺言無効確認の訴えを提起する方法もありますが、別にそのような訴えを提起しなくとも、具体的な相続財産の所有権に関する訴訟で遺言の無効を主張したり、遺言の無効を理由として家庭裁判所に遺産分割調停の申し立てをすることができます。
ただ、家庭裁判所には遺言の有効・無効に関して最終的に判断する権限はありませんので、遺産分割において遺言の有効性が最後まで争われているような場合には、地方裁判所で遺言無効確認の訴えを提起せざるを得ない場合も考えられます。
その場合は、その訴訟に決着が付くまでは、家庭裁判所での調停や審判の手続きは原則として中断するか、取り下げることになります(家庭裁判所からは、取り下げるよう勧告されると思います)。
 
Q5−12 うちの父は6年前に病気にかかり、協議の結果長男夫婦が父の面倒をみることになり、その代わり父の遺産はすべて長男夫婦が2分の1ずつ相続することになり、父は平成9年10月20日付けで「私の財産は、長男夫婦が私の療養看護をする見返りとして、長男に2分の1、長男の妻に2分の1を相続させる」という内容の公正証書遺言を作り、私をはじめとする他の兄弟は全員遺留分を放棄しました(このとき、長男の嫁は父の養子になりました)。
ところが、長男夫婦はまじめに父の面倒を見ようとせず、それどころか長男の嫁は父に暴力を振るうようになったので、たまりかねた父は間もなく長男夫婦の家を飛び出して私の家に転がり込んできて、その後は私と私の妻が父の面倒を見ていた。父は「あんな遺言を書いたのは間違いだった」と嘆いていたものの、遺言の取消はしないまま昨年亡くなりました。
というのは、父や私たち夫婦は公正証書で遺言をしたらもう取消はできないものと思いこんでおり、公正証書遺言でもその取消ができることは、父の死後に私がこのページを読んではじめて知ったのです。このような場合、遺言の取消はできるでしょうか?
A5−12 民法には、「負担付き相続分の指定」の取消に関する明文の規定はありませんので、負担付き遺贈の場合と異なり、家庭裁判所に遺言の取消請求をすることはできません。
このような場合は、遺言無効確認の訴えを提起して、父が長男夫婦の家を飛び出してあなたの家に転がり込んできた行為を「実質的に遺言と抵触する行為」であるとして、民法1023条2項(抵触する法律行為による遺言の取消)の類推適用を主張するか、あるいは1027条(負担付き遺贈の取消)の類推適用、詐欺(民法96条)による遺言の取消、長男夫婦の権利濫用(1条3項)といった主張を展開することが考えられますが、このようなケースにうまくあてはまる判例がないので、どういう結果になるかはちょっと予想できません。
 
Q5−13 (Q5−12の続き)先生にお願いした遺言無効確認訴訟の件なのですが、訴えを提起したら、裁判官はこちらの主張にある程度理解を示してくれているようなのですが、被告の長男夫婦が、「遺言取消権の放棄書 私は、平成9年10月20日付けで作成した公正証書遺言の取消権を放棄します。
平成9年10月22日 (父の署名・押印)」と書かれた念書(全部父の自筆です)を証拠として出してきて、父は遺言の取消権を放棄しているから遺言の取消はあり得ないと主張してきました。このような念書は、法律上効力があるのですか?
A5−13 遺言者は、その遺言の取消権を放棄することができない(民法1026条)ので、そんな念書に法律上の効力は一切認められません。仮に、遺言書に「この遺言は絶対に撤回(取消)しない」などと書かれていても同様です。
なお、法廷における裁判官の態度は、事件に対する裁判官の心証を反映している場合もありますが、そうでない場合もありますし、訴訟が長期化すると裁判官が交代してしまうこともよくあるので、裁判官の態度はあまりあてにしない方がよいと思われます。
 
6 相続の承認、放棄及び限定承認
Q6−1 「相続放棄」「限定承認」の具体的な方法を教えてください。
A6−1 相続放棄は、相続人が自己のために相続の開始があったことを知った日から、原則として3ヶ月以内(この期間を「熟慮期間」といいます。)に、被相続人の最後の住所地(相続開始地)を管轄する家庭裁判所に対し、相続放棄の申述をしなければなりません(民法915条1項本文、938条、家事審判法9条甲類29号、家事審判規則99条1項)。
相続放棄の申述は、申述者の氏名及び住所、A被相続人の氏名及び最後の住所、B被相続人との続柄、C相続の開始があったことを知った年月日、D相続の放棄をする旨を記載した申述書に、申述者または代理人が署名押印して家庭裁判所に提出することでこれを行います。また、添付書類として相続関係を証明する戸籍謄本や除籍謄本等が必要になります。
限定承認の期間及び方法は、原則として相続放棄と同じですが(民法915条1項本文、924条、家事審判法9条甲類26号、家事審判規則99条1項。なお、申述書も上記?Dが「限定承認をする旨」となるほかは相続放棄の場合と同様)、相続放棄が各相続人の判断で自由に行えるのに対し、限定承認は相続人が数人あるときは、全員の共同でなければ限定承認をすることはできないこと、及び財産目録を調製して申述時にこれを家庭裁判所に提出しなければならないことが、相続放棄の場合と異なります(民法923条)。
なお、前記の熟慮期間内に、相続放棄・限定承認の申述のいずれも行わなかったときは、原則として単純承認(被相続人の資産及び債務を無限定に承継すること)をしたものとみなされます(民法921条2号)。そのほか、相続財産の全部または一部を処分し(保存行為及び短期賃貸を除く)、これを隠匿し、私にこれを消費し、または悪意でこれを財産目録(限定承認の申述時に提出するもの)中に記載しなかった場合にも、単純承認をしたとみなされる場合があるので注意してください(民法921条1号、3号)。
 
Q6−2 今年の3月末、父親が借金を残し他界しました。相続する財産・土地などは全く有りませんので、弁護士さんに相続の放棄をしたいと相談に行ったところ、父の配偶者(母親)、子供4人分、父の弟妹4人分の手続きで、一人5万円、計45万円かかると言われました。
家庭裁判所への相続の放棄の申請は、必ず弁護士を通さないといけないものなのでしょうか? また、仮に自分で申請できるとしても、素人が一人でするには難しいものなのでしょうか?
A6−2 相続放棄の申述の方法はA6−1で説明したとおりですが、家庭裁判所に行けば、一般の人でも簡単にできるような手続であり、弁護士を通じて行う必要はありません。
その弁護士が言っているのは、あえて弁護士に相続放棄手続の代理を依頼する場合には、手数料として1人あたり5万円かかるよ、という意味であり(この金額自体は、弁護士会の報酬基準に照らし、特に不当なものではありません)、1人あたり5万円払って弁護士に依頼しないと相続放棄ができないよ、という意味ではありません。
 
Q6−3 個人事業を営んでいた父親が死亡しましたが、たくさんの資産や負債があって相続財産の調査に時間がかかり、単純承認をするか、相続放棄または限定承認をすべきか、3ヶ月以内には判断できそうにありません。このような場合に、何かいい方法はありませんか?
A6−3 相続人は相続の承認または放棄をする前に、相続財産の調査をする権利が認められていますが(民法915条2項)、相続財産の内容が複雑で3ヶ月以内に判断できないような事情がある場合には、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に対し、相続の承認または放棄をすべき期間(熟慮期間)の伸長を請求することができます(民法915条1項ただし書、家事審判法9条甲類24号、家事審判規則99条1項)。
熟慮期間の伸長を請求できるのは利害関係人または検察官ですが、伸長請求を認めるかどうかは家庭裁判所の裁量にかかっていますので、万が一請求が却下された場合に備えて、伸長請求はなるべく早めに行っておきましょう。
 
Q6−4 私の夫は先日他界しましたが、受取人欄を「相続人」とした保険金額1000万円の生命保険に加入していることが分かりました。夫には多額の借金があるようなので相続放棄をしたいのですが、相続放棄をするとこの保険金の受け取りも放棄しなければならないのでしょうか?
A6−4 相続放棄は、民法上の相続財産の承継を放棄するという意思表示なので、相続放棄をしても相続財産でない生命保険金の受領権には何ら影響を及ぼしません。
したがって、受取人欄が「相続人」となっていても、生命保険金請求権は相続の放棄がないものとみなした場合の相続人が取得することになります(受取割合の問題についてはA4−2を参照)。
 
Q6−5 相続税の基礎控除額は、5000万円に法定相続人の数_1000万円を足した額であると聞きましたが、一部の相続人が相続放棄をするとこの基礎控除額も減ってしまうのでしょうか? また、相続放棄をすることにより税制上の他のデメリットはあるのでしょうか?
A6−5 相続税の基礎控除額は、相続の放棄があった場合でも放棄がなかったものとして計算される(相続税法15条2項)ので、相続放棄により相続税の基礎控除額が減ることはありません。
なお、相続税に関する保険金の非課税限度額(相続税法12条1項5号)は法定相続人の数_500万円とされており、この場合も基礎控除額の総額は相続放棄の有無を無視して計算されますが、相続放棄をした者や相続権を失った者は「相続人」ではなくなるため、この基礎控除の適用を受けることができなくなる(その者の分の基礎控除額の恩恵は他の相続人に分割され、相続放棄等の結果相続人がいなくなった場合は結果的に保険金の基礎控除は適用されないことになる)ので、この点は相続放棄による税制上のデメリットといえるかもしれません(もっとも、保険金を含めた相続税の課税対象となる相続財産及びみなし相続財産の合計が相続税の基礎控除額を超えていない場合には、もともと相続税はかかりませんので心配は不要です)。
 
Q6−6 私には、ここ10年ほど別居して連絡も取っていない父親がいましたが、その父親が死亡したとの連絡が入りました。父親には特に遺産もなさそうなのでそのままにしていましたが、父親が死んだとの連絡が入ってから3ヶ月ほど経ったころ、突然貸金業者から「うちはあなたの父親に対して500万円金を貸していた。
あなたは父親の死を知ってから3ヶ月以内に相続放棄も限定承認もしなかったのだから、父親の債務である500万円の借金を払え」という趣旨の電話がありました。このような場合、もう相続の放棄はできないのでしょうか。
A6−6 近年、このような手口を使って相続人に債務を負担させようとする貸金業者等が現れ社会問題になっていましたが、これに対し最高裁昭和59年4月27日判決(判時1116−29)は、民法915条1項本文の熟慮期間について、「相続人が相続財産の全部または一部の存在を認識したときまたは認識しうべきときから起算するべきである」という判示をしました。
この判示によれば、被相続人が死亡したことを知ってから3ヶ月を経過した場合でも、死亡時に相続人が被相続人の資産や債務があることを知らず、また知ることができなかった事情があるときは、例外的に当該資産や債務があることを知った日(または知ることができるようになった日)から3ヶ月以内であれば、例外的に相続放棄または限定承認ができるということになります。
したがって、設問のようなケースであれば、貸金業者から電話があったときから3ヶ月以内であれば、相続放棄または限定承認をすることができることになります。
 
Q6−7 父親が先日莫大な財産を残して死亡したのですが、自分は特に生活に困っているわけでもないし、巨額の財産を受け取ってもろくなことにならないし、莫大な財産の管理にも手間がかかりそうだと思ったので、家庭裁判所に相続放棄の申述をしました。
ところが、その後ファイナンシャル・プランナーに住宅購入の相談に行ったら、自分の現在の収入では、自宅を購入するどころか、子供が成人して独立した後の老後資金さえ足りなくなるということが判明しました。このような場合、熟慮期間の範囲内であれば、相続放棄を撤回することができるでしょうか?
A6−7 一旦した相続放棄や限定承認の申述を撤回することは認められていません(民法919条1項)ので、設問に対する答えは「できません」ということになります。
もっとも、相続放棄や限定承認も意思表示の一種なので、民法総則の規定による無効原因(民法95条の錯誤など)がある場合には、相続放棄や限定承認の無効を訴訟上主張することは妨げられないとされており(最判昭和29年12月2日民集8−12−2310)、また相続の承認・放棄が詐欺・強迫による場合(民法96条)、未成年者が法定代理人の同意なく行った場合(4条)、成年被後見人が行った場合(9条)、被保佐人が保佐人の同意なく行った場合(12条1項6号、3項)、後見人が、後見監督人があるにもかかわらずその同意なく行った場合(864条、865条)などには、追認をすることができるときから6ヶ月以内、かつ承認または放棄のときから10年以内に限り、家庭裁判所に対し当該承認・放棄の取消の申述を行うことができる(民法919条2項、3項)ものとされていますが、設問の場合は明らかに動機の錯誤に過ぎないので、相続放棄の無効確認も取消もできないと考えられます。
ただ、相続放棄や限定承認をした後でも、相続財産の全部または一部を隠匿し、私にこれを消費し、または悪意でこれを財産目録に記載しなかった場合には単純承認をしたとみなされる(民法921条3号)ので、あなたが相続を放棄したことで相続人になった者がいないか、またはいても相続の承認も放棄もしていない段階であれば、わざとこれらの行為を行うことで単純承認を行うという裏技(?)も考えられないではありませんが、これらの行為は相続放棄者の管理継続義務(民法940条)に反する行為であり、場合によっては業務上横領罪(刑法253条)に問われるおそれもないとは言えないので、お勧めはできません。
相続の放棄や限定承認は、後で後悔することのないよう、慎重に考えてから行いましょう。
 
Q6−8 3ヶ月ほど前に、私の兄が死亡しました。兄は多額の借金を抱えており、兄の妻子は先月家庭裁判所に相続放棄の申述をしたと聞きました。このような場合、私も相続放棄の申述をする必要があるのでしょうか(なお、私と兄の両親、祖父母等はいずれも既に他界しております)?
A6−8 相続人が相続放棄をすると、その者ははじめから相続人でなかったものとみなされる(民法939条)結果、相続放棄により同順位の相続人がいなくなると、次順位の推定相続人に相続権がまわってくる(これを「再転相続」といいます。)ことになります。
設問の場合、兄の推定相続人である子が全員相続放棄し、兄の直系尊属は全員既に死亡しているということなので、次順位であるあなたに相続権が発生していることになりますので、もし兄に多額の借金があるということであれば、相続放棄の申述をする必要があると考えられます。
なお、この場合の相続放棄の申述をすべき期間(熟慮期間)は、自己のために相続の開始があったことを知った日、具体的には兄の子が全員相続放棄を行ったことを知った日から3ヶ月以内ということになります(民法916条)。
 
Q6−9 相続放棄または限定承認をした者は、遺産の管理につきどのような義務を負うことになりますか?
A6−9 相続放棄と限定承認の場合に分けて説明します。
<相続放棄の場合>
相続人が相続放棄をしたときは、その放棄によって相続人となった者が相続財産の管理を始めることができるようになるまでの間、放棄した相続財産について「自己の財産と同一の注意」をもって、その財産の管理を継続しなければならないこととされています(民法940条1項)。
また、この管理継続義務が生じている間は、相続人となった者の請求があればいつでも管理事務について報告しなければならず、管理が終了したときはその顛末を報告し、目的物を相続人となった者に引き渡さなければならないことになります。
一方、管理事務によって生じた費用は、相続人となった者に対して請求することができ(ただし、管理事務の報酬は当然に請求できるわけではありません)、また、利害関係人または検察官の請求により、家庭裁判所は管理人の選任等相続財産の管理に必要な処分を命ずることができます(民法940条2項)。
<限定承認の場合>
相続人が限定承認をしたときは、「その固有財産におけると同一の注意」をもって相続財産の管理を継続しなければならず、その管理については委任に関する規定が一部準用されるほか、利害関係人または検察官の請求により家庭裁判所が管理人の選任等相続財産の管理に必要な処分を命ずることができる点は相続放棄の場合と同様です(民法926条)。
ただ、限定承認をした者は、さらに相続財産の清算手続きを行う義務を負います。
具体的には、限定承認をした後5日以内に、一切の相続債権者及び受遺者に対し、限定承認をしたこと及び一定の期間(2ヶ月以上の期間を定める)内に債権の申し出をしなければ清算から除斥する旨を付記して、その請求を促す公告(除斥公告)をし、さらに限定承認者に知れている債権者に対しては個別に債権申し出の催告をし、公告期間が満了したら、法定の順序に従って相続債権者及び受遺者に債務を弁済し、相続財産のうち換価する必要があるものは原則として競売に付すことになります(民法927条〜935条)。
清算手続きは、債権者数が多かったり優先弁済権を有する者がいたりするとかなり複雑なものになるほか、弁済する順番を誤ったり公告期間満了前に弁済してしまったりすると、後で限定承認者が損害賠償責任を負うこともありますので、相続財産の清算手続きは、弁護士などの専門家に依頼するのが無難でしょう。
 
Q6−10 私は新潟県で農業を営んでいる者です。私には長男、次男、三男及び長女の4人の子がおりますが、私の農業を継ぐのは長男だけで、他の子は皆家を出て東京で暮らしています。
私には、自宅と農地以外にはめぼしい財産はありませんので、私の財産は長男にすべて相続させようと思い、他の子にはすべて家を出るときに相続を放棄する旨の念書を書かせて、署名押印もさせました。この念書は法律上有効でしょうか?
A6−10 相続の放棄は、「自己のために相続の開始があったことを知ったときから」3ヶ月以内にしなければならず(民法915条1項本文)、相続開始前に相続の放棄をすることはできないので、残念ながらその念書はいずれも無効です(ただし、例外的に有効と解されることもあります。A12−6参照)。
なぜ事前の相続放棄が認められないかというと、現在の民法は戦前の封建的な家制度を否定するため、均分相続をその大原則としており、もし事前の相続放棄を認めると、親によって子の相続放棄が事実上不当に強制されるおそれがあるからです。
ただ、家庭裁判所の許可を得れば遺留分の事前放棄は認められるので(後述)、もし長男にあなたの全財産を相続させたいのであれば、他の子すべてに遺留分を放棄させ、それについて家庭裁判所の許可をもらった上で、あなたの全財産を長男に相続させるという内容の遺言を残しておけば、その目的は達成されることになります(ただし、遺留分の放棄が不当な強制に基づくものだと判断されると、家庭裁判所の許可が得られないこともあり得ますので、場合によっては他の子に遺留分を放棄させるとき相当の財産を分与する必要があるかもしれません)。
 
Q6−11 先日、個人事業を営んでいる父が死亡したのですが、遺産の内容が複雑で、相続放棄にしようか限定承認にしようか迷っています。相続放棄をするか限定承認をするかは、どういう基準で判断したらよいですか?
A6−11 限定承認は、一見すると被相続人のプラスの財産だけを相続できるおいしい制度のように見えますが、限定承認を行うと、A6−9で説明したとおり相続財産の清算手続をしなければならず、また被相続人の所得に関する準確定申告等の手続や、その他未払いの租税公課の支払いもしなければならず(もっとも、国税通則法5条1項後段、地方税法9条1項後段の規定により、租税の支払いは相続によって得た財産の範囲内ですればよいことになっています)、手続はかなり煩雑であるため、多くの場合弁護士等の専門家に事務処理を依頼する必要が生じてきます。
そして、そのための弁護士費用等については、相続財産が仮にマイナスであった場合にも支払わなければなりませんので、清算後の相続財産が相当程度プラスになる見込みがある場合や、自宅等どうしても手放したくない遺産がある場合でなければ、相続放棄を選択した方が無難であると考えられます。
 
7 遺産の分割
Q7−1 父が死亡し、私を含む兄弟3人が父の相続人となりました(母は既に他界しています)。遺産分割の協議は、どのような方法で行えばよいのですか?
A7−1 相続財産(遺産)の分割は、被相続人の遺言の有無によって方法が異なります。
被相続人が遺言で遺産の分割方法を指定している(「○○の土地建物はAに、__銀行の定期預金はBに相続させる」など)場合には、それに従います。
被相続人が遺言を残していないか、遺言があっても具体的な分割方法を指定していない場合(「財産の4分の1はAに、4分の3はBに相続させる」など)、または指定漏れの遺産がある場合には、相続人全員で「遺産分割協議」を行い、作成した「遺産分割協議書」に相続人全員が署名押印することで遺産分割を行います。
相続人間で遺産分割の協議がまとまらず、または相続人のうちに行方不明の者がいるなどの理由で協議をすることができない場合には、家庭裁判所に対し遺産分割の調停を申し立て、調停によっても協議がまとまらないときは家庭裁判所に対し遺産分割の審判を申し立てることになります(民法907条1項、2項、家事審判法9条乙類10号、17条、18条)。
なお、遺産分割は、遺言により5年間を超えない範囲でこれを禁止することができ(民法908条)、この分割が禁止されている期間内には、遺産分割をすることはできません。
 
Q7−2 遺産分割協議書は、どのようなときに必要となりますか?
A7−2 遺産分割が成立するまでは、相続財産は原則としてすべて共同相続人全員の共有財産となりますので、相続人が数人あるときは、遺産分割協議書を作成しないと、各相続人が単独で相続財産に対する権利を行使することはできないことになります。
具体的に、遺産分割協議書が必要となるのは、主に以下のような場合です。
@ 不動産の所有権等移転登記手続
相続財産である不動産について、所有権等を被相続人の名義から遺産分割の結果新たな所有者となった相続人の名義に移転する登記手続きをおこなうときは、原戸籍謄本、除籍謄本、各相続人の戸籍謄本など相続関係を証明する書面とともに、遺産分割協議書も相続証明書の一部として登記所(法務局等)に提出する必要があります。
なお、遺産分割がなされないときは、各相続人が法定相続分により取得したものとして相続登記をすることができますが、その後遺産分割協議が成立し、これに基づき持分移転登記(遺産分割協議を登記原因とする登記、または錯誤を登記原因とする更正登記)をするときは、やはり遺産分割協議書が必要になります(このうち、遺産分割協議を登記原因とするときは、遺産分割協議書が登記原因証書になりますが、錯誤に基づく更正登記の場合は、遺産分割証明書は相続証明書の一部として扱われることになります)。
遺産分割協議による不動産の権利取得は、その旨の登記をしないと善意の第三者に対抗できませんので、遺産分割協議が成立したらなるべく早めに登記手続きを済ませておきましょう。
A 相続税の確定申告
相続税は、各相続人等が取得した相続財産等の価額を課税標準として課税されますので、相続税の確定申告をするときは、遺産分割により各人が取得した相続財産の内容を証明するために、遺産分割協議書を税務署に提出する必要があります。
なお、相続税の確定申告期限(原則として相続の開始を知った日から10ヶ月以内)までに遺産分割が成立しないときは、各相続人が法定相続分により相続財産を取得したものとして確定申告をする必要がありますが(相続税法55条)、この場合配偶者の相続税額の軽減、小規模宅地等の評価減といった税法上の特例措置を受けることができなくなります。
B 被相続人名義の銀行預金等の払い戻し
銀行、信託銀行、証券会社その他の金融機関等は、預金等の名義人について相続が発生したことを知った場合、原則として遺産分割協議が成立したことを確認するまでは、相続人による払戻請求には応じてくれません。このため、被相続人名義の銀行預金等の払戻を請求するには、当該金融機関等に遺産分割協議書を提出する必要があります。
 
Q7−3 遺言で、遺産分割協議をする必要がないくらい詳細に遺産分割方法の指定がなされている場合でも、なお遺産分割協議書を作成する必要がありますか?
A7−3 遺言で遺産分割方法の指定が詳細になされており、遺産分割協議をする余地がない場合には、理論的には遺産分割協議書を作成する必要はありません。
不動産の登記については、「○○の土地建物をAに相続させる」という趣旨の遺言書に基づく相続登記をすることが判例上認められていますし、相続税法施行規則においても、確定申告で提出すべき相続関係を証明する書面として、遺言書が遺産分割協議書と並べて例示列挙されています。
もっとも、遺言書をもって遺産分割協議書に代用するには、その内容及び有効性について疑義がないほど完璧なものを作成する必要があります(少しでも疑義があるような遺言書の場合は、提出しても「念のため遺産分割協議書も作って出してください」といった「行政指導」等がなされることが考えられます)ので、一般の人が文面を作成した自筆証書遺言等では、遺言執行者の指定がないと、遺産分割協議書に代用するのはかなり難しいようです。
 
Q7−4 遺産分割は、どのような基準及び方法でなされるのですか?
A7−4 遺産の分割は、相続財産に特別受益(A8−1以下で説明)を足して、寄与分(A9−1以下で説明)を差し引いた額を、法定相続分または指定相続分(遺言で指定された相続分)により各相続人間で分割した額に基づいて行うのが原則ですが、遺産に属する物または権利の種類または性質、各相続人の年齢、職業、心身の状態及び生活の状況その他一切の事情を考慮してすることとされています(民法906条)。
遺産分割の方法は、次の3つがあります。
@ 現物分割
遺産を現物のまま分割する方法で、これが分割の原則的方法です。
A 換価分割
共同相続人の1人または数人が、相続により取得した財産の全部または一部を金銭に換価し、その換価代金を分割する方法です。換価の方法は、共同相続人全員の合意があればその合意に従い任意売却することもできますが、合意ができず家庭裁判所の審判によって換価分割する場合には、家事審判法15条の4、民事執行法195条の規定に基づき競売を行うことになります。
B 代償分割
共同相続人の1人または数人が、相続財産の現物を取得し、その現物の取得者が他の共同相続人に対し債務を負担する(つまり、現物の取得者が他の共同相続人に対し、自己の固有財産で代償金を支払う)方法です。なお、審判に基づく分割の場合には、「特別の事由」がある場合に限り代償分割の方法による遺産分割が認められます(家事審判規則109条)。
 
Q7−5 私は5人兄弟の長男で、私以外の兄弟は既に皆独立し、私と妻が両親と同居し、妻が老いた両親の面倒を見てくれています。両親の財産は、私たちが両親と一緒に住んでいる自宅の土地建物(父名義)以外、目ぼしいものはありません。私の家には、両親の面倒を見ている子供が親の遺産を全部相続するという慣習があり、それは他の兄弟も十分承知していると思うのですが、万が一家庭裁判所で遺産分割の調停や審判となった場合、家庭裁判所はこのような慣習を考慮してくれるのでしょうか?
A7−5 特に地方出身の方だと、このような事をおっしゃる方が意外と多いのですが、残念ながら、このような慣習の類は遺産分割では考慮できません。
いわゆる「慣習」については、民法92条により「公の秩序に関しない」法令上の規定と異なるもので、かつ当事者がこれに従う意思があると認められるときに法律上の効力が認められるのですが、戦後改正された民法の相続編は、戦前の「家」制度を否定し、均分相続(民法900条4号)をその大原則とした上で、一定の方式を満たした「遺言」によってのみその変更を認めるものの、遺留分制度によりその変更にも制限を加えている、という制度になっています。
このような民法の沿革に鑑みると、「遺産は全部長男が相続する」とか、「遺産は親の面倒を見た子供が全部相続する」などといった、均分相続の原則と相容れない慣習は、そもそも公の秩序に反するものとして法律上その効力は認められないと解されるほか、実際に遺産分割をめぐって紛争が生じている場合に、当事者にそのような慣習に従う意思があると認められることはまずないと考えられます。
したがって、設問のようなケースで父親が亡くなり遺言も残されていない場合、あなたが父の遺産の全部を相続することについて他の兄弟全員が納得し、その旨の遺産分割協議書にも素直に署名捺印するなら問題は生じませんが、兄弟のうち1人でも民法の規定を盾に文句を言ってくる人がいれば、家庭裁判所では父の遺産であるあなたの自宅を兄弟全員が均分相続することになり、あなた自身に自宅の代償分割ができるほどの資金がないのであれば、最悪の場合自宅を売却してその代金を兄弟で均等に分ける、といった結果も生じかねません。
父の遺産となる自宅を全部あなたのものにしたいのであれば、法律上は他の兄弟全員に遺留分を放棄させた上で、父に遺産のすべてをあなたに相続させるという趣旨の遺言を書いてもらう必要があります。
 
Q7−6 遺産分割において、遺産に不動産など価格の判定が必要な財産がある場合には、どのような基準で評価すればよいのですか?
A7ー6 判例及び通説に従えば、遺産分割における財産の評価は、分割時の時価を基準としてこれを行います。相続開始時の時価ではなく、ましてや相続税評価額や固定資産税評価額を使うことはできないので注意してください。
 
Q7−7 遺産分割協議において、遺言の内容に反する遺産分割をすることは可能でしょうか?
A7−7 わが国の民法では相続自由の原則が採られており、遺言で相続分や遺産分割方法の指定がなされていても、相続人がそのとおり被相続人の遺産を相続する義務はありません。したがって、共同相続人の全員が合意すれば、遺言の内容に反する遺産分割協議を行うことも可能であると考えられます。
もっとも、遺言があることを共同相続人の全員が知った上でそれに反する遺産分割協議を行うのであれば問題は生じませんが、共同相続人のうち1人でも遺言の存在または内容を知らない人がいた場合や、遺産分割協議の成立後に新たな遺言が発見されたような場合には、遺産分割協議が錯誤(民法95条)等により無効とされる可能性があります。
 
Q7−8 遺産分割協議はいつまでに行わなければならないのでしょうか?
A7−8 民法上、遺産分割をいつまでにやらなければならないという期限は設けられていません。したがって、極端な話をすれば相続開始の100年後であっても、遺産分割協議をすることは(理論上)可能です。
ただし、遺産分割協議が遅くなると、善意の第三者が利害関係人として出現したり、相続人の1人または数人が死亡し、その人についてさらに相続が発生する(これを「数次相続」といいます。)などの問題が発生して協議が難航するおそれが高くなるほか、相続税の確定申告期限(原則として相続開始を知った日から10ヶ月以内)までに遺産分割が行われないと税法上の優遇措置が受けられなくなるおそれがありますので、遺産分割はなるべく早く行った方がよいでしょう。
 
Q7−9 遺産分割協議のやり直しは可能でしょうか?
A7−9 遺産分割協議につき、錯誤、詐欺、強迫、無権代理その他の無効原因または取消原因が存在するときは、共同相続人は家庭裁判所に遺産分割の調停を申し立てることで遺産分割のやり直しを請求することができます(この際、別途遺産分割協議の無効確認の訴えを起こす必要はありません)。
また、そのような無効原因や取消原因がない場合でも、共同相続人の全員が合意すれば遺産分割協議のやり直しをすることは可能です。
もっとも、遺産分割協議のやり直しを行い、これによって各相続人の取得する財産の内容が変更されると、税務署がこれを共同相続人間の実質的な贈与とみなし、多額の贈与税が課税されるおそれがありますので、安易な遺産分割協議のやり直しはお勧めできません。
 
Q7−10 遺産分割協議に参加できる人はどのような人ですか?
A7−10 原則として共同相続人です。もっとも、推定相続人であっても相続欠格事由、廃除により相続権を失った人は参加できず、この場合代襲相続人が相続人として遺産分割協議に参加することになるほか、相続放棄をした人も参加できないことは言うまでもありません。
ただ、共同相続人でなくても、被相続人から包括遺贈を受けた者(特定の財産を遺贈された者ではなく、単に相続財産の何分の何という形で遺贈を受けた者のことで、これを通常「包括受遺者」といいます)や、共同相続人または包括受遺者から相続分の全部または一部を譲り受けた者(民法905条の規定により、相続分の譲渡は可能と解されています)は、共同相続人と同様の権利義務を有することになるので、遺産分割協議に参加することができます(その者が相続権を失った者や相続放棄をした者であっても同じ)。
また、共同相続人や包括受遺者であっても、その相続分の全部を第三者に譲渡した者は、実質的に共同相続人としての権利義務を失っていると考えられますので、遺産分割協議には参加できないものと解されます。
 
Q7−11 遺産分割協議の結果によって、税法上のメリットやデメリットが生じる場合はありますか?
A7−11 遺産分割協議によって誰がどの遺産を取得するかによって、税法上のメリットやデメリットが生じる可能性はいろいろなものが考えられます。例を挙げると、
@配偶者の相続税額の軽減の適用の有無、または軽減額
A未成年者控除、障害者控除の適用の有無、または軽減額
B配偶者及び一親等の血族以外の相続人等に対する相続税額の2割加算の適用の有無、またはその増加額
C小規模宅地等の評価減または取引相場のない株式等についての相続税の課税価格の減額措置の適用の有無、またはその軽減額
などが問題となるでしょう。
もっとも、相続税の負担の軽減を重視するあまり、税務署に提出するための名目上の遺産分割協議書を作成し、実際の遺産分割は別に行うなどの脱法的な手段を行うと、後でその遺産分割協議書の効力について紛争が生じ、訴訟費用や弁護士費用だけで節税額をはるかに上回ってしまったり、さんざん争った末に遺産分割をやり直すことで調停や和解を成立させたところ、税務署がそれを実質的な贈与とみなして多額の贈与税を課税してくるなどという、極めて悲惨な事態に陥ることも考えられますので、遺産分割協議においては、税金の問題だけでなく各相続人が納得できる遺産分割を行うことも重要となってきます。
具体的な事案について、どのような遺産分割を行うことが適当であるかは、極めて多角的な視点からの検討が必要であり、このページはもちろん、掲示板でお答えできる範囲をも超える難題ですので、弁護士や税理士などの専門家から直接アドバイスを受けてください(もちろん、当事務所でも相続や遺産分割に関する相談は随時受け付けております)。
 
Q7−12 昨年母が死亡し、相続人(私と姉)のみで遺産分割について話し合い、口頭で合意しました。内容は私が姉より多く遺産を受け取るという受け取るものでしたので、その事に念を押したのですが、その内容で了承されましたが、書面は一切作成しておりません。
しかし、後日姉は突然、自分の同意内容を取り消すと言って、私に対し遺産の半分を渡すよう要求し、遺産分割協議書への署名も拒否しております。A7−1では、遺産分割をするときは遺産分割協議書を作成して相続人全員が署名押印するものと説明されていますが、このような口頭での遺産分割の同意、確認は、有効な遺産分割協議として成立するものでしょうか?
A7−12 民法上、遺産分割協議に付き書面を作成することは必ずしも義務付けられてはおらず、理論上は口頭でも遺産分割協議は成立しますが、口頭による合意は立証が非常に難しく、後日のトラブルを避けられないうえに、遺産分割に基づく不動産の相続登記や相続税の確定申告などは、相続人全員の署名押印のある遺産分割協議書がないと受け付けてくれませんので、協議書を作らないと実務上の手続はかなり困難になります。
また、あなたが法定相続分より多く受け取る旨の合意は、それに合理的な理由が認められない限り、裁判などになっても、あなたの口頭による主張だけで簡単に認定してもらえるとは思えませんので、書類を何も残していないのであれば、一から協議をやり直した方が無難だと思います。
 
Q7−13 私の夫はプロ野球の選手でしたが、先月交通事故で亡くなってしまいました(夫の遺言はありません)。夫と私の間には、既に生まれた子供はいませんが、私は現在夫の子を身ごもっています。
いま、夫の両親から遺産分割協議の話を持ちかけられているのですが、私はお腹の子の代理人として遺産分割協議をすることができるのですか? また、民法の法定相続分の規定を読むと、お腹の子が生まれたときには夫の両親の相続権はないように思えるのですが、それでも夫の両親と遺産分割協議をする必要がありますか?
A7−13 まず、胎児は相続に関しては生まれたものとみなす(民法886条1項)とされていますが、胎児の母親を胎児の法定代理人とする規定はありませんので、あなたが胎児の代理人として遺産分割協議に参加することはできません。
仮に胎児に対する母親の代理権を認めたとしても、胎児は名前もまだ決まっていませんし、人数も決まっていない(死産や流産で0人となることもあれば、双子や三つ子が生まれる可能性もある)ので、事実上遺産分割協議書に署名することはできないでしょう。
したがって、遺産分割協議は子供が生まれるのを待ってから行うのが、法律的にも実際的にも妥当でしょう。そして、子供が生きて産まれたときには、当然夫の両親に相続権はありませんから、あなたとその子供だけで遺産分割をすればよいことになります。
ただし、あなた自身も夫の相続人である以上、あなたが子供の代理人として遺産分割協議をすることは利益相反行為になりますので、遺産分割協議書が必要な場合は、家庭裁判所に特別代理人の選任を申し立てた上で、その特別代理人が子供の代理人として遺産分割協議書に署名押印する必要があります(民法826条1項)。
なお、不幸にして子供が死産になってしまったということであれば、あなたと夫の両親が相続人ということになりますので、三者間で遺産分割協議をすることになります。
 
Q7−14 以前にご相談した話(Q7−13)の続きなのですが、子供の出産が大変な難産になってしまいまして、看護師さんの話によると、子供は私の体から出てきたときには一応生きていたらしいのですが、産声をあげる前に亡くなってしまったそうです。
そうしたら、亡き夫の両親が「産声をあげなかったのだから、子供は生きて産まれたとはいえない」といって、遺産分割協議をしろと言ってきました。このような場合、子供は生きて産まれたことになるのでしょうか?
A7−14 法律上、人の出生の判定基準については明文の規定がなく、学説は分かれていますが、民法上は子供の身体が母親の胎内から全部露出したときに「出生」したものとするのが現在の通説です(全部露出説)。
したがって、子供があなたの胎内から完全に出てきたときに生きていた、ということであれば、産声をあげないまま亡くなっても法律上は「生きて産まれた」ことになり、結果的に夫の財産は全部あなたのものになると考えられます。
 
Q7−15 私の息子はプロ野球の選手でしたが、10年前に亡くなりなした。息子の嫁は息子の子供を身ごもっていましたが、結局死産になってしまったので、息子の嫁が3分の2、私たち夫婦が合わせて3分の1の割合で、息子の遺産を分割しました。
ところが、今年になって、息子の嫁は突然「私の子は、産まれた瞬間には生きていたのだから、亡き夫の財産は私のものになるはずだ」と言い出して、出産に立ち会った医師や看護師の陳述書まで用意して、私たちに対し、分割した息子の遺産の返還を求める訴訟を起こしてきました。
私たちは、息子の子が産まれた瞬間には生きていたなどという事実はいままで全く知らなかったのですが、このような息子の嫁の請求に応じ遺産の返還に応じなければならないのでしょうか?
A7−15 あなたのお孫さんが生きて産まれたということを、出産に立ち会った医師や看護師が揃って証言しているのであれば、裁判所でもそのとおりの事実が認定される可能性が高く、息子の嫁の請求も必ずしも理由がないものとはいえないことになりますが、このような場合には、抗弁として相続回復請求権の消滅時効(民法884条)を援用することが考えられます。
相続回復請求権の消滅時効は、相続人やその法定代理人が相続権の侵害された事実を知ったときから5年間とされており、その息子の嫁が、その子供が産まれた瞬間には生きていたという事実を出産当時に知っていれば、法律上その場合には生きて産まれたものと解釈されることを知らなくても、5年の消滅時効は既に成立していることになります(もっとも、息子の嫁が最近になって医師や看護師からその事実を知らされたということになると、消滅時効は成立していないことになります)。
なお、相続回復請求権の消滅時効を援用できる者は、判例上「相続権侵害の開始時において、相続権侵害の事実を知らず、かつこれを知らなかったことに合理的事由があった者」に限定されていますが、Dさん夫婦の場合は、特段の事情がない限りこの要件も満たすのではないかと思われます。
 
Q7−16 私の父が先月亡くなりました。母はすでに亡くなっていて、父の相続人は私と兄だけだと思っていたのですが、兄と遺産分割協議をするとき、兄が突然「私の妻が父の養子になっているから、父の遺産は3人で平等に分けよう」と言ってきました。
戸籍謄本などを取り寄せてみると、確かに平成15年2月10日付けで、兄が言ったとおりの養子縁組の届出がなされているのですが、父が亡くなったのはその翌日であり、病れ気でほとんど意識不明の重体だった父に、そのような養子縁組の意思表示をする能力があったとは思えません。遺産分割に際し、養子縁組の無効を主張するにはどうすればよいでしょうか。
A7−16 そのような事情があれば、その養子縁組は養親である父につき養子縁組をする意思がなかったものとして無効と判断される可能性が高いと考えられますので、とりあえずは遺産分割の調停を申し立て、調停の場でそのような主張をされればよいと考えられます。
ただし、兄側があくまで養子縁組が有効であると主張して決着が付かない場合には、家庭裁判所には養子縁組の有効性を最終的に判断する権限がないので、養子となっている兄の妻を被告として、地方裁判所に養子縁組無効確認の訴えを提起するほかはありません(なお、養子縁組等の人事に関する事件については、家事審判法18条によりまず調停の申し立てをすることになっていますので(調停前置主義)、いきなり地方裁判所に養子縁組無効確認の訴えを提起することはできません)。
そして、その訴訟に決着が付くまでは、家庭裁判所の遺産分割調停や審判の手続きは原則として中断することになりますが、そのような場合は、家庭裁判所から一旦申立を取り下げるように強く言われることが多いようです。
以上は現行法における事件処理の流れですが、人事訴訟法では養子縁組に関する事件の管轄が家庭裁判所に移されますので、同法が施行されれば、このような煩雑な手続の改善も期待できるものと考えられます。

Q7−17 先ほどご相談した件(Q7−16)の続きですが、兄は結局遺産分割の調停で養子縁組の無効を認めると言ってきたので、父の財産は私と兄で折半するということで話がまとまりかけているのですが、戸籍上はなお兄の妻が父の養子であるということになっており、このままでは気持ち悪いので養子縁組の戸籍を抹消したいのですが、それにはどのような手続きが必要でしょうか?
A7−17 家庭裁判所の遺産分割調停でそのような話がまとまったのであれば、養子となっている兄の妻も当事者に加えて、家庭裁判所に対し、家事審判法23条の規定による「合意に相当する審判」をしてもらう必要があります。養子縁組を無効とする「合意に相当する審判」が確定したときは、家庭裁判所書記官から戸籍事務の管掌者にその旨の通知がなされますが(家事審判規則143条)、それだけで戸籍の訂正が行われるわけではなく、審判が確定した日から1ヶ月以内に、審判書の謄本と審判確定証明書(裁判所書記官が発行します)を添付して、市区町村役所(役場)に戸籍の訂正を申請する必要があります(戸籍法116条1項)。

Q7−18 私の父が昨年亡くなりましたが、兄弟間で遺産分割の話し合いがまとまらず、現在家庭裁判所で遺産分割の調停を行っています(私の母は既に死亡しています)。
私の兄(長男)は、5年前から両親と同居しており、その住居は土地・建物ともに長男名義になっていることから、長男はその住居は自分の固有財産であり相続財産ではないと主張していますが、その住居は時価1億円以上もする豪邸で、長男はせいぜい月給20万円程度のサラリーマンですので自分でそんな豪邸が買えるはずもなく、もと弁護士で資産家であった父が購入代金のほとんどを出しているに違いないのです。
このような場合、長男の住居が父の遺産であると主張することはできるでしょうか?
A7−18 登記簿上は長男名義になっている住居であっても、父がその購入代金の全部または大部分を支出し、しかもその分について父から長男への贈与がなされた形跡(贈与契約書の作成や、贈与税の申告がなされた形跡など)もないということであれば、その住居は実質的に父の遺産であると解することが可能ですので、このような場合であれば、長男に対し遺産確認の訴えを提起して、その住居が父の遺産であることを主張できると考えられます。

Q7−19 遺産確認の訴えは、どこの裁判所に提起すればよいのですか? 家庭裁判所の遺産分割審判で同時にこの問題を処理してもらうことはできますか?
A7−19 遺産確認の訴えは、通常の訴訟事件なので、訴額90万円以下なら簡易裁判所、それ以上なら地方裁判所の管轄になります。
家庭裁判所の遺産分割審判は、遺産の範囲、相続人及び相続分が定まっていることを前提として、その具体的な分割方法について審判を行うものですので、その前提となる遺産の範囲等につき共同相続人間で争いがある場合は、まず遺産確認の訴えでその前提問題につき決着をつけないと、後で審判の効力が覆されてしまう可能性がありますので、遺産分割審判だけで問題を処理してもらうことはできません。
このように、同じ遺産分割に関する事件なのに、個々の法律問題につき管轄が地方裁判所(簡易裁判所)と家庭裁判所に分かれているというのが、一般的に相続に関する紛争が長期化する原因の1つとされており、現行法の問題点としてかねてから指摘されているところなのですが、現在検討されている司法改革においても、遺産に関する事件の家庭裁判所への移管の問題については先送りとされてしまっており、現在のところ改善される見込みはまだありません。

Q7−20 昨年5月に父が他界し、年末になって長男が兄弟4人を集め、遺産分割協議が開かれました。 長男は、父から引き継いで経営している会社が、年を越せないから助けてくれと泣きついてきたので、長男が母の面倒を見ること、父が連帯保証人になっていた長男の債務については速やかに返済することなどを条件に、相続人全員で、長男に有利な内容の遺産分割協議書にシブシブ捺印しました。
しかし、その後長男は債務を返済するどころか、遺産で自分の住宅ローン(父が連帯保証人となっているものではない)を支払ったり、ゴルフ会員権を購入したりしており、母を含めた私達他の相続人に対しても、協議書で決めた遺産を渡そうとしません。
また、長男が面倒を見るはずだった母に対しては、早く家を出て行けとばかりに陰湿な苛めをしており、母はこれに耐えきれず長男の家を出ることになりました。このような場合、遺産分割協議を解除することは可能でしょうか?
A7−20 このような場合、長男に対し、遺産分割協議で決めた遺産の引き渡しを請求することは可能であると思われますが、遺産分割協議に基づく債務を履行しないという理由で、遺産分割協議自体を解除することはできないという判例(最判平成元年2月9日民集43−2−1)がありますので、残念ながら遺産分割協議を解除することはできないと考えられます。
ただ、母親の扶養に関する事項は遺産分割協議の内容そのものでありませんので、母が長男の家を出て他の兄弟が母親の面倒を見るということになれば、長男に対し扶養のための費用の負担を請求することはできると考えられます。

Q7−21 私の父が昨年亡くなり、母と私、私の弟、妹の4人が相続人になりました(父の遺言はありません)。そこで、4人で遺産分割協議をしようと思っていたのですが、弟は浪費で借金を重ねたあげくに夜逃げしてしまい、全く連絡がとれなくなってしまいました。このような場合、遺産分割はどうやってすればいいのでしょうか。
A7−21 共同相続人の中に行方不明者がいる場合には、その者について、家庭裁判所に対し不在者財産管理人の選任を申し立て(民法25条)、管理人をその者の代理人として遺産分割協議をすることになります。もっとも、不在者財産管理人の代理権は原則として保存行為等に限定されていますので、この場合に遺産分割協議を成立させるには、家庭裁判所の許可が必要となります(民法28条、103条)。なお、あなたをはじめとする他の共同相続人は、利益相反行為(民法108条)の問題が生じるので管理人になることはできません。

8 特別受益
Q8−1 先日父親が死亡し、現在共同相続人である兄、姉と私の3人で遺産分割協議をしています(父の遺言は特にありません)。父の遺産は合計で5000万円あり、これを3人で均等に分けようかという話をしているのですが、姉は結婚するときに父から1000万円の贈与を受けているのに対し、兄や私はそのような贈与は受けていません。
それなのに、贈与を受けている姉と受けていない兄や私が父の遺産を均等に分けなければいけないというのはどうも納得できません。このような場合、兄や私から、姉に対し何か言えないでしょうか?
A8−1 このような場合、姉の受けた生前贈与が「特別受益」であると主張することが考えられます。「特別受益」の一般的な説明は第2部にありますが、あなたの場合、姉の受けた1000万円の贈与は、その金額や経緯からして明らかに特別受益であると考えられますので、父の遺産5000万円に姉の受けた生前贈与1000万円をあわせた6000万円が相続財産であるとみなされ、これを兄弟3人で均等に分け、あなたと兄がそれぞれ2000万円を相続できる一方、姉は自己の相続分2000万円から特別受益1000万円を引いた残額1000万円のみを相続できる、ということになります(ただし、贈与時と相続開始時の貨幣価値の差はここでは考慮していません)。
 
Q8−2 姉の受けた贈与が特別受益になることは分かりましたが、そういえば、私は横浜国立大学に現役合格し、卒業後すぐに会社員として独立したのですが、兄は一浪して東京大学に入学し、1年留年して司法試験に合格し、現在弁護士になっています。
兄が通った大学受験の予備校や司法試験の予備校の学費は全部父が負担していましたので、父が負担した学費は私の分より兄の分の方が明らかに多いと思うのですが、これも兄の特別受益と考えることはできないでしょうか(なお、姉はお茶の水女子大学に進学し、卒業後すぐにOLになって独立しており、私と学費の差はあまりないと思うので、姉の学費について特別受益を主張するつもりはありません)?
A8−2 学費が特別受益となるかどうかという問題は難しい問題で、確たることは言えないのですが、一般的に学費は原則として特別受益とはならず、ただし他の兄弟姉妹とは別に、しかも被相続人の資産収入からして無理して、特定の相続人のみに(大学以上の)高等教育を受けさせたような場合には特別受益にあたると解されているようです。
設問の場合、兄は確かに他の兄弟より多くの学費を負担してもらっているかもしれませんが、他の兄弟も大学には入れさせてもらっていること、3人とも国立大学であること、司法試験云々というのは学費もさることながら本人の資質や努力にも大きく左右されることを考えれば、設問の状況だけでは兄が特別受益者であるとまではいえないと思います。
 
Q8−3 私の夫が先日亡くなりました。私と夫との間には2人の子がいて、2人とも既に独立しています。夫の遺産は自宅の土地建物(時価5000万円相当)と預貯金3000万円の合計8000万円です。夫は遺言を残していませんでしたが、自分を契約者・被保険者、私を受取人とする保険金額2000万円の生命保険(定期保険)に加入しており、夫の死亡により、私が保険金の全額を受け取りました。
すると、2人の子が「生命保険金は私の特別受益にあたるから、自分たちの相続分は各2000万円ではなく各2500万円だ。自宅を100パーセント私のものにしたいなら、夫の預貯金全部と生命保険金全部を自分たちによこせ」と言ってきました。私が受け取った生命保険金は、子供たちのいうとおり特別受益にあたるのでしょうか?
A8−3 被相続人が保険契約者及び被保険者となっていた生命保険の死亡保険金について、従来学説や裁判例においても見解が分かれていましたが,最高裁平成16年10月29日第二小法廷決定は「死亡保険金請求権は,被保険者が死亡した時に初めて発生するものであり,保険契約者の払い込んだ保険料と等価関係に立つものではなく,被保険者の稼働能力に代わる給付でもないのであるから,実質的に保険契約者又は被保険者の財産に属していたものとみることはできない」ので,民法上の特別受益に該当するための要件である「遺贈又は贈与に係る財産」に該当せず、原則として特別受益には該当しないとの判断を示しました。
ただし、例外として「保険金受取人である相続人とその他の共同相続人との間に生ずる不公平が民法903条の趣旨に照らし到底是認することができないほどに著しいものであると評価すべき特段の事情が存する場合には,同条の類推適用により,当該死亡保険金請求権は特別受益に準じて持戻しの対象となる」との判断を示し、上記特段の事情の有無については「保険金の額,この額の遺産の総額に対する比率のほか,同居の有無,被相続人の介護等に対する貢献の度合いなどの保険金受取人である相続人及び他の共同相続人と被相続人との関係,各相続人の生活実態等の諸般の事情を総合考慮して判断すべきである。」と判示しています。
そうすると、問題になるのはあなたの事例について上記「特段の事情」が認められるかどうかですが、亡夫には死亡保険金以外に合計8000万円相当の遺産が存在していたこと、亡夫はあなたと同居しており子供達は既に独立して別居していたなどの事情に照らせば、おそらく上記「特段の事情」はなく、特別受益に準ずるものとして持戻しの対象になることもないと考えられます。
なお、上記最高裁の決定は、共同相続人である兄弟4人間の紛争で、保険金以外にも約6400万円相当の相続財産があったという事案ですが、兄弟の1人が受け取った約574万円の死亡保険金について「上記特段の事情があるとまではいえない」と判示しています。
 
Q8−3−2 私の母が先日亡くなりました。母にはめぼしい財産はなく、母は私たち一家(私には夫と2人の子供がいます)と同居し、2年ほど前に母が病気になってからは、母の面倒はもっぱら私一人で見てきましたし、ささやかながら母の葬式も私たちが費用を出して行いました(なお、父は10年ほど前に死亡しています)。
私には兄が1人おり、母は長男である兄が可愛かったのか、自分を契約者・被保険者、兄を受取人とする終身生命保険に加入し、少ない年金収入の中から保険料を自分で支払っていました。
しかし、兄は就職して独立した後は、母のもとにはあまり帰ってこなくなり、母が病気になってからは一度も見舞いに来ませんでした。母も、兄の態度に落胆し、保険金の受取人を私に替えようかと言ってくれていましたが、受取人の変更手続を取る前に母の病状が悪化し、結局受取人が兄のままで母が亡くなってしまったので、死亡保険金500万円は兄に支払われてしまいました。
生命保険金は原則として特別受益に該当しないとのことですが、このような場合にも私は兄に支払われてしまった保険金について、何の権利も主張することが出来ないのでしょうか?
A8−3−2 A8−3で紹介した最高裁決定は、「保険金の額,この額の遺産の総額に対する比率のほか,同居の有無,被相続人の介護等に対する貢献の度合いなどの保険金受取人である相続人及び他の共同相続人と被相続人との関係,各相続人の生活実態等の諸般の事情を総合考慮」した上で、「保険金受取人である相続人とその他の共同相続人との間に生ずる不公平が民法903条の趣旨に照らし到底是認することができないほどに著しいものであると評価すべき特段の事情が存する場合には,同条の類推適用により,当該死亡保険金請求権は特別受益に準じて持戻しの対象となる」との判断も示していますので、上記「特段の事情」があると認められれば、特別受益に準じて持戻しの対象になります。
いかなる場合に上記「特段の事情」が認められるかは、今後の裁判例の集積を待つしかありませんが、少なくともあなたのような極端なケースであれば、おそらく「特段の事情」があると判断され、保険金は持戻しの対象になると考えられます。
ただ、生命保険金を特別受益として考慮するとしても、生命保険金の金額は被相続人の財産というわけではありませんので、相続人の1人が受け取った保険金全額を特別受益に準ずるものとするには無理があり、考えられるのは?生命保険金の実質的な貯蓄性に着目して、被相続人の死亡時における解約返戻金相当額を、遺贈と同視して特別受益に加えるとする(主に民法学者の間で有力な説)、または?被相続人の払込済保険料の額を基準にして特別受益に準ずる金額を算定する(主に商法学者の間で有力な説)ことになると考えられます。
なお、なお、生命保険金の解約返戻金は、保険の種類や加入期間によって異なり、一般的に一番解約返戻金が多いのが養老保険(一定の年齢に達した場合に満期返戻金がもらえるもの)で、満期直前だと解約返戻金の額は保険金額とほとんど同額近くになることもあります。
次に多いのが終身保険で、年齢が高くなるにしたがって解約返戻金の額は増加していきます。あなたの母が加入していたのは終身保険とのことですので、亡くなられたときの年齢や保険の加入期間によっては、解約返戻金は500万円とまではいかなくても相当な金額にのぼる可能性があります。
これに対し、定期保険(一定の年齢に達したら契約終了となり、満期返戻金がないもの)の場合は、掛け捨てですので基本的に解約返戻金はありません。ただ、年齢の上昇にかかわらず長期にわたって保険料が固定されている定期保険(長期平準定期保険)については、保険期間中の一時期にかなり高額の解約返戻金が貯まることもあります。
 
Q8−4 傷害保険や医療保険の死亡保険金、死亡退職金、遺族への公的年金等は特別受益になりますか?
A8−4 傷害保険については、通常掛け捨てで貯蓄性がないので特別受益にはならないというのが現在の判例・通説ですが、傷害保険であっても満期返戻金があり貯蓄性のある商品もあるので、解約返戻金のある傷害保険については生命保険と同様の取り扱いになる可能性があります。医療保険についても同様です。
死亡退職金については、退職金が賃金の後払い的性質を有することから特別受益にあたると解する説が有力ですが、弔慰金等の名目で支払われるものは、慣習上喪主や遺族への贈与であって、特別受益にはならないと解するのが一般的で、そのような判示をした裁判例もあります(もっとも、死亡退職金も弔慰金も通常は会社の就業規則の規定に基づいて遺族に支払われる金銭であることに変わりはなく、名目を分けて支払われているのは、単に法人税法上損金として認められる死亡退職金の適正額と弔慰金の適正額の枠をフルに活用したいだけだというのが実情なので、このような解釈の合理性には疑問が残ります)。
公的な遺族年金、遺族共済金等については、遺族の生活保障のために支払われる遺族固有の受給権であるから特別受益にはならないとした裁判例がありますが、学説は分かれており、未だ明確な結論は出されていないのが現状です。
 
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