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第3部 相続等に関するQ&AU Q&ATへ

    (回答末尾→Q&Aindex へ)


9 寄与分


Q9−1 私は,結婚してから長年夫の両親と同居し,10年ほど前から夫の父が痴呆で寝たきり状態になったため,私1人でその看護を続けてきました。夫の父の看護は大変で,私は忙しさのあまりろくに寝る暇もないほどでした。
夫の父は先月亡くなり(夫の母は既に亡くなっています),遺言はなかったので夫がその兄弟と遺産分割協議をしているのですが,私の看護は夫の寄与分として考慮してもらえるのでしょうか?

A9−1 民法904条の2は,寄与者の範囲を「相続人」に限定していますが,相続人の配偶者については相続人の履行補助者として捉え,その寄与は配偶者である共同相続人の寄与として考慮するというのが現在の通説です。   よって,看護の態様や看護に要する負担の程度にもよりますが,設問のケースについては夫の寄与分として考慮される可能性が高いと考えられます。


Q9−2 Q4−4でお尋ねした者ですが,実は私と同棲していた男性は生命保険の代理店を経営しており,私が経理担当として代理店の仕事を手伝っていたのですが,その給料はもらっていませんでした。
その男性の遺産分割にあたり,私の寄与を私の2人の子供(認知はしてもらっています)の寄与分として考慮してもらうことはできるでしょうか?

A9−2 残念ながら,内縁の妻の寄与をその子の寄与分として考慮することは,民法904条の2の解釈上無理であるというのが現在の通説です。あなたのような場合には,法律上は通常訴訟で実質的な労働契約の成立を主張し,相続人らに対し賃金請求をするなどの方法しかないと思われます。


Q9−3 私の夫が先月亡くなりましたが,夫は5年前から病気で寝たきり状態になり,私がずっと夫の看護を続けてきました。私たち夫婦には子供はいませんので,夫が亡くなったら夫の全財産を私が相続できると思っていたところ(夫もそう思っていたようで,特に遺言などは残していませんでした),これまでほとんど付き合いのなかった夫の弟が,自分は夫の法定相続人だから4分の1の相続分があると言って,私に対し遺産分割を請求してきました。
知り合いの弁護士に確認したところ,確かに夫の弟にも4分の1の相続分があるようなので遺産分割に応じるのはやむを得ないと考えておりますが,夫の看護を私の寄与分として主張することはできないでしょうか?

A9−3 寄与分が認められるためには,法律上認められた親族間の協力扶助義務の範囲を超えた「特別の」寄与である必要がありますが,配偶者同士の間では,他の親族間の扶養義務(民法730条,877条)に比べ,より強い「協力扶助義務」が認められています(民法752条)ので,いくら看護が大変であったとしても,配偶者の看護は夫婦間の協力扶助義務の履行に過ぎず,「特別の」寄与とは認められないというのが現在の通説です。したがって設問のケースでは,残念ながらあなたの寄与分の主張は認められないと考えられます。


10  遺贈及び死因贈与


Q10−1 「遺贈」とは何ですか? また,「相続」とはどこが違うのですか?

A10−1 遺贈とは,被相続人が,遺言で,特定の者に対し自分の遺産を贈与することをいいます。
遺贈は,特定の財産を指定してする(例えば,「○○の土地建物は××に遺贈する」)こともできますし(これを「特定遺贈」といいます),特定の財産を指定しないで単に遺贈する割合等だけを示してする(例えば,「自分の遺産の4分の1を××に遺贈する」「自分の遺産は全部△△に遺贈する」など)こともできます(これを「包括遺贈」といいます。以上民法964条)。
遺贈は,誰に対してもすることができる(愛人でも,赤の他人でも,法人でもよい)のに対し,相続は,民法上被相続人の相続人となる者だけにさせることができる,というのが遺贈と相続の最も大きな違いです。
なお,民法上相続人となるべき人に対し「遺贈」することもできますが,不動産を相続人に「遺贈」すると,登記手続に際し遺言執行者との共同申請が必要になり,しかも必要な登録免許税額も高くなる(遺贈の登記では,当該不動産の固定資産課税台帳登録価額等の1.0%であるのに対し,相続の登記では0.2%となります。
なお,この税率は平成15年4月1日から平成18年3月31日までの軽減措置によるものです)というデメリットがあるのに対し,その他の点については遺贈と相続(相続分の指定ないし遺産分割方法の指定)に特別な差異はない(ただ,遺留分減殺請求においては,遺贈が生前贈与より先に減殺の対象になる。民法1033条)ので,相続人に対し遺言で財産を与えるときには,特段の事情がない限り「遺贈する」ではなく「相続させる」と書いた方がよいでしょう。
ちなみに,相続税に関しては,遺贈の場合には相次相続控除(第4部で説明)の適用が受けられなくなるほかは,相続と遺贈に関する取り扱いの差異は特にありませんが,相続や遺贈により財産を取得した者(税法上の「みなし相続財産」を取得した者を含む)が被相続人の配偶者または1親等の血族以外の者であるときは,原則としてその者の相続税額は2割加算されます(相続税法18条)。


Q10−2 私の祖父は先日亡くなりましたが,祖父は「自分が集めた絵画のコレクションはすべて私に遺贈する」という趣旨の遺言を残していました。
しかし,私は絵画に興味はなく,しかも祖父の集めていた絵画はみんな贋作で財産価値のないものばかりなので,正直言ってこんな物はいらないのですが,祖父が遺言で私に遺贈すると書いた以上,受け取らなければならないのでしょうか?

A10−2 特定遺贈を受けた者(受遺者)は,遺言者の死亡後いつでも遺贈を放棄することができます(民法986条)ので,受け取る義務はありません。なお,特定遺贈の放棄は,相続の放棄と異なり,家庭裁判所への申述などは必要なく,文書でも,口頭でもすることができます。


Q10−3 私の叔父が先月亡くなりました。叔父は,生前私を非常に可愛がってくれており,財産の3分の1を私に遺贈する旨の遺言書を書いてくれていました。
ところが,叔父が亡くなったので叔父の財産を調べてみると,叔父は事業経営に失敗し,債務超過状態であることが明らかになったので遺贈を放棄しようと思うのですが,私のような包括遺贈の場合でも,遺贈の放棄はいつでもすることができ,家庭裁判所に対する手続は必要ないのでしょうか?
 

A10−3 民法986条を読むと,たしかにあなたのような包括遺贈の場合でも,いつでも遺贈を放棄できるように読めるのですが,包括遺贈については相続人と同一の権利義務を有する(民法990条)ことから,包括遺贈の放棄については,相続放棄と同様に,自己のために遺贈があったことを知った日から3ヶ月以内に,家庭裁判所に遺贈放棄の申述をしなければならない,というのが現在の通説です。   したがって,あなたの場合は,速やかに家庭裁判所に行って包括遺贈放棄の申述をされた方がよいと考えられます。


Q10−4 「遺贈」と「死因贈与」はどこが違うのですか?

A10−4 どちらも,贈与者の死亡を停止条件(効力発生の条件)とする贈与であることには変わりありませんが,「遺贈」は遺言でするものであり,「死因贈与」は受贈者との契約でするという違いがあります。
もう少し具体的な違いを挙げると,「遺贈」は遺言なので,遺言者の一存でいつでも撤回できるのに対し,「死因贈与」は契約なので,書面でした贈与契約は贈与者の一存で勝手に撤回することはできないこと(ただし,贈与に関し自分が死ぬまでその面倒を見るなどの条件が付いた負担付死因贈与契約であれば,負担不履行などの事実があれば契約を解除することができます),死因贈与は遺言ではないので,遺言の方式に従ってする必要はない一方,契約なので受贈者の承諾の意思表示がないと効力を生じない,といった違いがあります。
なお,相続税法では,死因贈与は遺贈と同様に扱われます(相続税法1条)ので,税制上の違いは特にありません。


Q10−5 私の父が先月交通事故で亡くなりました。父は,自ら営んでいた窯業の後継者として,私の従兄(被相続人の甥)を指名し,従兄に自分の全財産を贈与するという遺言を残していたのですが,その従兄は,仕事で父と同じ車に乗っている間に交通事故に遭い,父とともに亡くなってしまいました(父とどちらが先に亡くなったかは分かりません)。
従兄には妻がいましたが,子供はいません。このような場合,父の財産は従兄の妻に行ってしまうのでしょうか?

A10−5 被相続人の死亡以前に受遺者が死亡した場合,遺贈はその効力を失う(民法994条1項)ものとされ,これは同時死亡の推定が働く場合にも適用されると解されていますので,この場合には遺贈はその効力を生じないことになり,父の相続人が法定相続分に従って父の遺産を相続することになります。


Q10−6 私の父は,5年前くらいから病床にあり,随時介護を必要とする状態になったことから,父と私たち兄弟で話し合った結果,兄(長男)の妻が父の介護をする代わり,父の財産の半分は長男に相続させ,残りの半分は,父の介護をする負担の見返りとして長男の妻に遺贈するという内容の公正証書遺言が作られ,私や他の兄弟は,全員遺留分放棄の手続きをとりました。
ところが,その遺言が作られて間もなく,長男の妻は他の男と駆け落ちして行方知れずとなってしまい,長男は欠席判決をもらって妻と離婚し,父の介護はやむなく長男がホームヘルパーなどを雇って行っていました(なお,そのころ父は病気でほとんど判断能力がなくなってしまったので,遺言の取り消しはしていません)。
そして昨年父が亡くなったのですが,その後になって長男の(元)妻が突然現れ,自分に遺贈された財産の引き渡しを要求してきました。いくら公正証書遺言を作ったからといって,こんなひどい女に父の遺産の半分を渡すなんて到底納得できません。何かいい方法はないでしょうか?

A10−6 長男の妻に対する本件の遺贈は「負担付き遺贈」の一種と考えられますが,負担付き遺贈を受けた長男の妻がその負担を履行していないことは事案からして明らかですので,あなたをふくめた父の相続人は,家庭裁判所に遺言の取り消しを請求できる(民法1027条)と考えられます。
もっとも,民法1027条は取消請求に先立って,相当の期間を定めた履行の催告を要求していますが,本件の場合は長男の妻の負担は明らかに履行不能なので,条理に照らし催告は不要であると考えられます。
なお,取消請求が認められた場合,長男の妻への遺贈は無効になりますので,その分は法定相続人が法定相続分により相続することになります(遺留分を放棄していても相続は可能です)。


Q10−7 私の父は,10年前に甥夫婦(つまり私の従兄弟夫婦)を養子に迎えました。というのは,1人息子である私が実家を離れて東京の会社に就職してしまったので,父の家業である農業を継がせるのと,年老いた父自身の面倒を見てくれる人がほしい,ということで,父は甥夫婦を養子に迎えたのです。そのとき,父は,養子となった甥夫婦が終生自分の面倒を見てくれるというので,その見返りに「自分の全財産は,全部甥夫婦に遺贈する」という内容の自筆証書遺言を作成していたのですが,私はそのことは知りませんでした。
しかし,甥夫婦は養子縁組後次第に父を邪険に扱うようになり,父が病気になってもろくに面倒も見ないような有様だったので,偶然実家に帰省した私が見るに見かねて,父に甥夫婦と離縁するように勧め,2年前に父と甥夫婦は協議離縁し,その後は私と私の妻が父の面倒を見ていました。
ところが,父は先ほどの遺言を取り消すことを忘れたまま昨年亡くなってしまい,その後甥夫婦は,前述の遺言書を盾に父の全財産をよこせと私に要求してきました。このような場合,遺言がある以上父の財産を渡さなければならないのですか?

A10−7 このような場合,父の遺言は甥夫婦が養子として一生自分の面倒を見てくれることを前提としていますので,甥夫婦がろくに父の面倒を見ず,そのために協議離縁したということになれば,その離縁は実質的に遺言と抵触する行為であるとして,民法1023条2項により遺言は取り消されたものとみなされると考えられます(類似事件の判例として,最判昭和56年11月13日民集35−8−1251)。   したがって,父がした甥夫婦への遺贈は,協議離縁時に取り消されたものとみなされますので,遺言書を盾にした甥夫婦の要求に応じる必要は一切ありません。


11 遺言執行者


Q11−1 「遺言執行者」とは何ですか?

A11−1 簡単に言えば,遺言者に代わって遺言の内容を実現させる人です。遺言で規定できる事項の中には,子の認知や廃除など,相続人が執行することのできないものや,または相続人が執行することが不適当なものも含まれていますので,遺言者に代わって遺言執行者がこれらの遺言を執行するわけです。


Q11−2 遺言執行者は誰がどのように選任するのですか?

A11−2 被相続人が,遺言で選任します(民法1006条)。遺言執行者は1人ではなく数人でも構いませんし,遺言で第三者に選任を委託することもできます。  遺言で遺言執行者の選任または選任の委託に関する事項が定められておらず,または遺言の定めによって遺言執行者に選任された者が就職を承諾しなかった場合で,かつ遺言の執行のために遺言執行者が必要とされるときは,利害関係人の請求により,家庭裁判所が遺言執行者を選任します(民法1010条)。


Q11−3 遺言執行者にはどのような人がなれますか?

A11−3 遺言執行者には,特別な資格等は要求されていないので,基本的には誰でもなることができ,相続人や受遺者,あるいは法人でもなることができると解されていますが,例外として未成年者及び破産者は遺言執行者になることができません(民法1009条)。
もっとも,遺言執行者の法的地位は相続人の代理人であると規定されている(民法1015条)ことから,遺言の内容によっては,相続人や受遺者などの利害関係人は遺言執行者として不適格であると判断される可能性もあります。


Q11−4 遺言執行者は,具体的にどのような仕事をすることになりますか?

A11−4 遺言執行者のやるべき仕事として,法律の明文で規定されている事項は以下のとおりです。

(1) 就職後遅滞なく,相続財産の目録を作成して,これを相続人に交付すること。なお,相続人の請求があるときは,その立ち会いのもとに財産目録を調製し,または公証人にこれを調製させなければならない(民法1011条)
(2) 未認知の子を認知する旨の遺言がある場合には,就職の日から10日以内に,認知に関する遺言の謄本を添付して,認知の届出をしなければならない(戸籍法64条)
(3) 推定相続人を廃除し,または廃除を取り消す旨の遺言がある場合には,遺言が効力を生じた後,遅滞なく家庭裁判所に廃除または廃除取消の請求をしなければならない(民法893条,894条2項)

以上のほか,遺言執行者は相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有する(民法1012条1項)とされており,遺言に基づく財産の受贈者への引き渡し等は遺言執行者の職務の代表例とされていますが,その他判例等によって遺言執行者の職務権限に属するとされているもの,及びされていないものの例を挙げると,概ね以下のとおりです。

<判例上遺言執行者の職務であるとされたもの>

(1) 相続人が,遺言の無効を理由に相続財産の共有持分権の確認を求める訴えを提起する場合に,その被告となること
(2) 遺留分を有する者が,遺留分減殺請求の意思表示をする場合に,その相手方となること
(3) 特定の不動産につき,遺言で遺贈する旨を定められた特定受贈者が,遺言の執行として当該不動産の所有権移転登記手続を行うときの登記義務者(共同申請人)となり,または当該特定受贈者が当該所有権移転登記手続請求の訴えを提起する場合に,その被告となること
(4) 相続財産である不動産につき,遺言の内容に反する内容の所有権移転登記等がなされている場合に,当該登記の抹消手続,または真正な登記名義の回復を登記原因とする所有権移転登記手続を請求する訴えを提起し,その原告となること
(5) 遺言で寄付行為または信託の設定が規定されている場合に,対象となる相続財産を設立中の財団法人または受託者に帰属させ,それが株式の場合は名義書換の手続を行うこと

<判例上遺言執行者の職務でないとされたもの>

(1) 特定の不動産につき,遺言で「相続させる」旨定められた相続人が,当該不動産の所有権移転登記手続を行うときの登記義務者となること(この場合は,相続人が単独で申請することができるので遺言執行者と共同申請をする必要はなく,また遺言執行者が当該登記手続の申請をする義務はない)
(2) 相続人が,受遺者に対し,遺贈の無効等を主張して,一旦なされた不動産の所有権移転登記の抹消請求の訴えを提起する際の被告となること(この場合は,遺言執行者ではなく受遺者が被告となる)
(3) 遺言で特定の相続人に「相続させる」旨の指定がされている不動産につき,第三者が当該不動産の賃借権確認の訴えを提起する場合にその被告となること(この場合は,遺言執行者ではなく当該相続人が被告となる)


Q11−5 遺言執行者の報酬や,遺言執行の費用はどうなりますか?

A11−5 遺言執行者については民法の委任に関する規定が準用されていますので(民法1012条2項),遺言の執行に要した費用は相続財産の負担とされますが,民法の委任契約は無報酬が原則なので,遺言に遺言執行者の報酬に関する定めがない限り,遺言執行者は当然に報酬を受け取ることはできません。
ただし,家庭裁判所は,遺言に遺言執行者の報酬に関する定めがないときは,相続財産その他の事情によって遺言執行者の報酬を定めることができるものとされており(民法1018条1項),特に遺言執行者が弁護士である場合には,特段の事情がない限り相続財産から相当の報酬が支払われることになると考えられます。


Q11−6 遺言執行者は,どのような場合に必要になりますか?

A11−6 遺言で子の認知,廃除または廃除の取消をするときは,必ず遺言執行者が必要になります。また,遺言で特定遺贈や寄付行為(相続財産で財団法人を設立すること),信託の設定を行う場合も,事実上遺言執行者が必要になる場合が多いと考えられます。
一方,上記のような内容の遺言がない場合,言い換えれば相続人間の相続分や特別受益に関する定め,遺産の分割方法等,相続人間の担保責任,包括遺贈,遺贈の減殺方法に関する定めしかない遺言をする場合には,必ずしも遺言執行者を指定する必要はありません(このような場合に遺言執行者を選任しても,仕事は財産目録を作ることだけなので,基本的に選任する意味はありませんが,遺言書に基づいて登記などを行う場合には,遺言執行者の指定がない自筆証書遺言では手続が円滑に進まない場合があるようです)。
なお,遺言で弁護士を遺言執行者に選任すると,その弁護士は相続人全員の代理人とみなされる結果,各相続人や受遺者の代理人になることはできなくなるので注意が必要です。


12 遺留分


Q12−1 遺留分の基礎となる「被相続人の財産」の額は,どのように算定されますか?

A12−1 「被相続人の財産」は,被相続人が相続開始のときにおいて有した財産の価額(時価)に,その相続開始前1年以内に贈与した財産の価額を加え(ただし,当事者双方が遺留分権利者に損害を与えることを知って贈与をしたときは,その贈与価額は1年以上前にされたものでも加算されます),その中から債務の全額を控除して,これを算定します(民法1029条,1030条)。
なお,相続人に対してなされた贈与で,前述の特別受益に該当するものは,相続開始の1年以上前か否かを問わず,「被相続人の財産」に加算され(民法1044条,903条,904条),その評価方法は特別受益の場合と同じですが,寄与分を控除することは認められていません(民法1044条は寄与分に関する民法904条の2を準用していない)。


Q12−2 遺留分減殺請求に期間制限はありますか?

A12−2 遺留分減殺請求は,遺留分権利者が,相続の開始及び減殺すべき贈与または遺贈(遺言による相続分の指定や遺産分割方法の指定を含む)があったことを知った日から1年間以内,または相続開始のときから10年以内にこれを行使しないときは,時効により消滅します(民法1042条)。
なお,ここでいう遺留分減殺請求権の「行使」は,必ずしも訴訟等を起こす必要はなく,遺留分侵害を理由として家庭裁判所に対し遺産分割調停を申し立て,あるいは単に遺留分を侵害している受遺者等に対しその旨の意思表示をすることで足りると解されています(裁判外の意思表示によって遺留分減殺請求権を行使するときには,証拠を残すため内容証明郵便によって行うことをお勧めします)。


Q12−3 遺留分を,相続開始前に放棄する(させる)ことはできますか?

A12−3 できますが,家庭裁判所の許可が必要です(民法1043条)。   なぜ遺留分の事前放棄に家庭裁判所の許可が必要かというと,遺留分は被相続人の遺族の権利の最低保障を定めるものであり,安易にその放棄を認めると,民法における均分相続の理念に反する長男相続などの古い慣習が半強制的に続けられたり,生計維持のために遺産を必要とする遺族の生存権が不当に侵害されるおそれがあるため,遺留分の放棄については,家庭裁判所においてそのようなおそれがないかどうか事前にチェックする制度になっているのです。
したがって,遺留分放棄の許可にあたっては,家庭裁判所は単に相続人の意思を確認するだけでなく,放棄が合理的・妥当であるかどうか一切の事情を考慮してこれを判断すべきものと解されています。


Q12−4 私の父が先月亡くなったのですが,父は,その財産(時価合計2億3000万円相当)のうち,長男に1億4000万円相当の財産を,次男に8000万円相当の財産を,私に1000万円相当の財産を相続させるという遺言を残していました(なお,母は既に死亡しており,長男,次男と私以外に父の相続人はいません)。
なお,父は長男と次男に対し,独立するときに住宅資金として各2000万円を贈与し,私が独立するときには3000万円を贈与してくれました。この遺言は,明らかに私の遺留分を侵害していると思うのですが,遺留分減殺請求権に基づき,私が長男及び次男に請求できる金額はいくらになるのでしょうか?

A12−4 遺留分侵害額の計算方法は, 遺留分侵害額=遺留分算定基準額×当該相続人の遺留分の割合 −当該相続人の特別受益額−当該相続人の純相続分額  となります。 あなたの場合,生前贈与がすべて特別受益にあたるという前提で計算しますと,遺言による遺留分侵害額は,3億円(遺留分算定基準額)×6分の1(あなたの遺留分の割合)−3000万円(あなたの特別受益額)−1000万円(あなたの純相続分額)=1000万円です。 このうち,長男に対して請求できるのは,1000万円×16000万円÷26000万円=約615万円,次男に対して請求できるのは,1000万円×10000万円÷26000万円=約385万円ということになります。


Q12−5 私の父(養父)は昨年死亡しましたが,全財産を私に相続させるという遺言を残しました。養父の相続人は,私ともう1人の養子(以下「A」とします)の2人なのですが,Aは私の養父の養子になった後,養父が病気となり生活に困るような状態になったにもかかわらず,ひとり養父を見捨てて家を出てしまい,以後,養父の死に至るまでの約25年間にわたり,ほとんど音信不通の状態でした。
そのため,養父の面倒はもう1人の養子である私が見ており,養父の家業である農業の仕事もほとんど私がしていましたので,養父は,Aとはもう縁を切ると言って,私に全財産を相続させるよう遺言を残したのです。
ところが,Aは,養父の死後になって,養父の遺産である自宅の土地建物及び農地が,合計で時価1億円程度になることから,遺留分減殺請求として私に対し2500万円の支払いを請求してきました。確かに,正式な離縁の手続はしていなかったので,法律上Aにも養父の遺留分があるのかもしれませんが,Aのようなひどい人に養父の遺産を分けるのは,養父の遺志にも反しますし,到底納得できません。このような遺留分減殺請求は法律上許されるのでしょうか?

A12−5 遺留分減殺請求も,民法の一般原則による規制は及びますので,被相続人と遺留分権利者との身分関係が形骸化し,その実体を失っているほか,遺留分権利者について廃除請求がなされればそれが認められるに足りる事情ないしはこれに相当する重大な事情が存在し,その行使が信義に反すると認められる場合には,遺留分減殺請求権の行使は権利の濫用であるとして許されない(東京地判平成4年5月27日金法1353号37頁)と解されています。
本件のような,養父を見捨てて長期間音信不通になっていた養子の遺留分減殺請求については,これを権利の濫用として排斥した裁判例が複数ありますので,本件の場合も,Aの遺留分減殺請求は,権利の濫用として排斥される可能性が高いと考えられます。


Q12−6 私の父は昨年亡くなりました。父の相続人は,長男である私とその兄弟3人の計4人ですが,5年前に父と兄弟間で話し合いを氏,父の農業は私が継ぎ,他の兄弟は父の預貯金からそれぞれ500万円(父の手持ちの預貯金のほぼ全額でした)を受け取って,いずれも「父の自宅の土地建物及び農地については,私が単独で相続させることを認め,これらの土地建物については一切権利を主張しない」旨の念書を書きました(しかし,遺留分の放棄の制度は誰も知らなかったので,家庭裁判所に対する遺留分の放棄の許可申請はしていません)。
そして,父は自宅の土地建物及び農地を含めたすべての財産を私に相続させる,という遺言を残していました。  ところが,私の兄弟3人は,父が死んだ途端,私に対し遺留分減殺請求をしてきました。
確かに遺留分の放棄制度を知らなかった私にも落ち度はあるのでしょうが,私には現金や預貯金などの資産はほとんどなく,価格弁償をすることはできませんので,遺留分減殺請求に応じるとなると,先祖伝来の自宅や田畑を売却することになり,私は生計を立てられなくなってしまいます。このような場合でも,私は兄弟らの遺留分減殺請求に応じなければならないのでしょうか?

A12−6 東京高判平成4年2月24日判タ803号236頁は,遺留分権利者らが相続分ないし遺留分を放棄する意思表示をした場合において,遺留分の放棄について家庭裁判所の許可を得ていない場合であっても,もし許可の審判の申立があれば当然に許可がなされるべき事案であり,遺留分減殺請求が認められると,相手方は相続財産である土地建物を処分せざるを得なくなる等予期しなかった損害を被る場合においては,このような遺留分減殺請求は信義誠実の原則に反するものであり,権利の濫用として許されないとし,本件と類似の事案について遺留分減殺請求を認めませんでした。
したがって,本件の場合も,あなたの兄弟がした遺留分減殺請求について,これを権利の濫用であると主張して争う余地は十分にあると考えられます。


Q12−7 私の夫が先月亡くなりました。相続人は私と1人の子供ということになると思うのですが,相続財産といえるものはほとんどなく,夫は死亡保険金額3000万円の生命保険に加入していたものの,受取人は夫の父親になっていたため,保険金は全額夫の父親が受け取ってしまいました。
このような場合,私たちが遺留分減殺請求権を行使して,夫の父親から保険金の何割かでも取り戻すことはできないでしょうか?

A12−7 この点については,学説・裁判例ともに分かれていたのですが,最判平成14年11月15日民集56−8−2069では,「自己を被保険者とする生命保険契約の受取人の変更は,民法1031条に規定する遺贈または贈与に当たるものではなく,これに準ずるものということもできない」と判示し,死亡保険金の受取人に対する相続人からの遺留分減殺請求を棄却した第一審及び原審の結論を維持しました。この判決が今後確定判例となるとは必ずしも言い切れないところがありますが,当該判決の判旨に従えば,あなたのケースで,夫の父親に遺留分減殺請求権を行使できる余地はないということになります。


13 相続人不存在の場合


Q13−1 相続人がいない場合,または相続人の全員が相続を放棄した場合,相続財産はどうなるのですか?

A13−1 相続開始のときにおいて,被相続人に相続人がおらず(相続人全員が相続放棄をした場合を含む),かつ包括受遺者(遺贈を放棄したものを除く)もいない場合(いることが明らかでない場合も含む)は,相続財産は法人として扱われ,利害関係人または検察官の請求により家庭裁判所が選任した「相続財産管理人」が,相続財産の清算を行います(民法951条,952条)。相続財産管理人は,通常は弁護士が選任されます。
相続財産管理人は,家庭裁判所が管理人選任の公告をした後2ヶ月を経過しても相続人のあることが明らかでないときは,遅滞なく,一切の相続債権者及び受遺者に対し,一定の期間内(2ヶ月以上で管理人が定めた期間)内に請求の申出をする旨の公告をし,法令の規定に従って請求のあった債権の弁済を行う一方,管理人または検察官の請求によって,家庭裁判所は相続人であるならば一定の期間(6ヶ月以上で裁判所の定める期間)内にその旨の権利を主張すべき旨を公告し,相続債権者,受遺者及び相続人の有無を確定します(なお,上記の期間内に申出をしなかった相続債権者や受遺者,及び権利の主張をしなかった相続人はその権利を行使できなくなります。以上民法957条,958条及び958条の2)。
なお,相続財産が債務超過の状態にあるときは,相続財産法人に対し破産宣告がなされ,破産手続きに基づく債務整理が行われることもあります(破産法222条以下。なおA15-1以下も参照)。
以上の手続によって,相続人,受遺者及び相続債権者が残っていないことが確定し,なお相続財産(積極財産)が残っているときには,「特別縁故者」に対する財産分与が行われることがあります。
具体的には,相続人に対する公告期間満了後3ヶ月以内に財産分与の請求をした者のうち,被相続人と生計を同じくしていた者(内縁の妻,事実上の養子など),被相続人の療養看護に努めた者,その他被相続人と特別の縁故があった者(特別縁故者)に対し,家庭裁判所は,相当と認めるときは残存する相続財産の全部または一部を与えることができます(958条の3)。
なお,特別縁故者に対する分与が行われず,または一部のみの分与が行われた場合において,なお相続財産(積極財産)が残っている場合は,その財産は国庫に帰属します(民法959条)。ただし,その財産が他の者との共有財産の持分であるときには,その持分は他の共有者に帰属します(民法255条)。


Q13−2 「特別縁故者」が分与を受けた財産については,相続税は課税されますか?

A13−2 相続税法では,特別縁故者が財産の分与を受けた場合には,その分与を受けたときに当該財産の時価相当額を被相続人から遺贈により取得したものとみなされる(相続税法3条の2)ので,相続税が課税されます。


Q13−3 私は分譲マンションを買って居住している者ですが,隣の部屋に住んでいた1人暮らしのおばあちゃんが先日亡くなりました。そのおばあちゃんはその部屋の所有者なのですが,親戚などの身よりはないそうです。
もし,そのおばあちゃんの相続人が現れず,特別縁故者も現れず,債権者や受贈者もいなかった場合には,そのおばあちゃんの持っていたマンションの敷地権は,マンションの他の所有者に帰属するのですか?

A13−3 分譲マンションの場合は,建物の区分所有に関する法律24条の規定により民法255条の規定の適用が排除されますので,マンションの敷地権は建物の区分所有権とともに,原則どおり国庫に帰属します。


Q13−4 父が多額の借金を背負って亡くなったので,私をはじめ父の親族は全員相続放棄をする予定ですが,家庭裁判所が弁護士を相続財産管理人に選任した場合,それによって発生した手続きなどに関して,私たちがその弁護士に報酬を支払わなくてはならないのですか?

A13−4 相続財産管理人の報酬については,法律上は家庭裁判所が相続財産の中から支払うことになっています(民法953条,29条2項)が,実際には,相続財産管理人を必要とする利害関係人(債権者など)が報酬を払うことが多いものと思われます。
相続放棄をした人は,基本的に相続財産管理人による清算など必要としませんから,相続財産管理人の報酬を払わされることはないと考えられます。


14 相続人と被相続人・相続人の債権者との関係


Q14−1 私の父が昨年他界しました。父は多額の負債を抱えていましたが,持ち家があるので誰も相続放棄はしませんでした。父の相続人は,母,私と弟の3人で,父の債務額は2000万円ですが,私たちはどのような割合で父の債務を相続することになるのでしょうか?

A14−1 被相続人の債務は,法定相続分の割合に従って相続されます。つまり,あなたの事案の場合,母は1000万円,あなたと弟は各500万円分の債務を承継することになります。


Q14−2 (Q14−1の続き)遺産分割協議で,父の持ち家は全部弟が相続することになり,その代わり父の債務は全額弟が払うことに決まりました。しかし,弟はその後会社をリストラされ自己破産してしまい,私のところに請求がきているのですが,遺産分割協議で父の債務は弟が全額支払うという取り決めになっている,と主張すれば,私の言い分は通るのですか?

A14−2 遺言による相続分の指定や遺産分割協議による債務の承継の取り決めは,いずれも被相続人の債権者に対抗できないと解されています。よって,そのような遺産分割協議があっても,弟が亡父の債務を完済できないときは,あなたは500万円の限度で,亡父の債務の支払い義務を免れないことになります。


Q14−3 私は,ある老人に1000万円のお金を貸していました。その老人は,老後の蓄えとしてかなりの額の預貯金や金融資産を持っていたので,貸し倒れにはならないだろうと思っていましたが,その老人が先月死亡してしまいました。
その老人の子供たちは,親に似ずかなりの浪費家で,このままだと,私が債務の弁済を受ける前に,子供が相続財産を使い果たしてしまうおそれがあります。何か,私の債権を保全する有効な法的手段はないものでしょうか?

A14−3 そのような場合は,相続開始から3ヶ月以内,若しくは相続人らが限定承認をすることができる期間内であるか,または相続財産が相続人の固有財産と混合する前であれば,家庭裁判所に対し財産分離の請求をすることができます(民法941条1項,950条)。
家庭裁判所から財産分離の命令がなされたときは,5日以内に,他の相続債権者及び受遺者に対し,その命令があった旨及び2ヶ月以上の期間を定めてその期間内に配当加入の申出をすべき旨を公告しなければなりません(民法941条2項)。
財産分離の請求をした者または配当加入の申出をした者は,相続財産について,相続人の債権者に先立って弁済を受けることができます(民法942条)が,配当加入の申出をした債権者等が予想外に多く,相続財産をもってその債務を完済することができなかった場合には,相続人の固有財産に対する弁済権は,相続人固有の債権者が受けるべき弁済権に劣後するものとされています(民法948条)ので注意して下さい。


Q14−4 私は,ある男性に500万円を貸していました。その男性自身は,一度自己破産をした経験があり,めぼしい財産も収入もない人でしたが,その父親はかなりのお金持ちで,父親が死んだら相続財産でお金を返してくれるという話だったので,その話を信用してお金を貸したのですが,その父親が亡くなったとき,その男性は相続放棄をしてしまいました。
このような場合,民法424条の債権者取消権(詐害行為取消権)によって,相続放棄の申述を取り消すことはできるでしょうか? また,その男性が相続放棄をする前に,父親名義の預金債権を法定相続分に基づいて差し押さえたのですが,この差押は有効ですか?

A14−4 被相続人の財産は,相続人の債権者に対する責任財産ではないので,詐害行為取消権の行使によって債務者がした相続放棄の申述を取り消すことはできません(最判昭和49年9月20日民集28−6−1202)。また,その預金債権の差押も無効になります。  そのような場合に金銭の貸付をする場合には,父親を連帯保証人にさせるべきです。


Q14−5 私は,ある女性に2000万円を貸し付けており,その後その女性がリストラで職を失い返済不能になり,支払督促で債務名義を取りましたが,めぼしい財産がなく執行不能になったので,仕方なく貸し倒れにしようと思っていましたが,その女性がたまたま時価5000万円くらいする住宅を相続した(その女性の法定相続分は4分の1です)ので,すかさずその女性の法定相続分に基づき,その住宅(土地建物)の持分を差し押さえました。
ところが,遺産分割協議で,その女性はその住宅の持分を放棄してしまい,その女性の兄弟が,私のした持分の差押は無効だから執行の申立を取り下げろと言ってきました。この場合,私がした持分の差押は無効になるのでしょうか?

A14−5 遺産分割協議は,相続放棄と異なり,相続人の債権者に対抗できないと解されていますので,その差押は有効です。


Q14−6 私の弟は,事業資金として銀行等から約9000万円の借り入れをしていましたが,経営がうまくいかず,しかも借りたお金をギャンブルや風俗などで浪費するなどしていたため,返済不能状態に陥っていました。
そして,私の父は,弟には一切財産を与えないこととし,昨年末頃に全財産を私に相続させるという遺言を残し,今年の1月に亡くなりました(なお,私の母親は既に他界しており,父の相続人は私と弟の2人だけです)。
ところが,弟の債権者の1人(銀行)が,父親の遺産の1つである不動産について,弟の法定相続分に対する仮差押をしてきました。私は,父の遺言による相続財産の全部を取得したことを理由として,第三者異議の訴えで銀行のした仮差押を排除することはできるでしょうか?

A14−6 法定相続分や指定相続分による相続財産である不動産の権利の取得については,登記なくして第三者に対抗することができ(最判昭和38年2月22日民集17−1−235など),「相続させる」趣旨の遺言による場合も本質的にこれらと異なるところはない(最判平成14年6月10日家月55−1−77)とされていますので,ご質問のケースでは,第三者異議の訴えで銀行のした仮差押を排除することは可能と解されます。


15 相続と破産・個人再生との関係


Q15−1 今年父が亡くなったのですが,生前に多額の借金を抱えていたので私たち兄弟は既に全員相続放棄をしており,相続人はいない状態にあります。このような場合に,父について自己破産の手続きを取ることはできるでしょうか?

A15−1 亡くなった人が自己破産(自らについて破産手続をすること)をすることはできませんが,債務超過の状態で亡くなった人がいる場合には,その人の相続債権者,受遺者,相続人,相続財産管理人または相続財産の管理に必要な権利を有する遺言執行者は,相続財産についての破産手続開始の申立てをすることができます(破産法224条1項)。
なお,相続財産について破産手続開始の申立てができるのは,原則として相続開始のときから3ヶ月以内ですが,その期間が経過した後でも,相続財産が相続人の固有財産と混合していない場合,または限定承認や財産分離の手続きが行われ,その手続きにおける相続債権者等への弁済が完了していない場合には,なお破産手続開始の申立てをすることができます(破産法225条1項,民法941条1項)。


Q15−2 私の父は,多額の借金を抱え自己破産の申立てをしたのですが,申立てをした翌日に病気で亡くなってしまい,まだ破産手続の開始決定は出ていません。父の破産手続はどのようになるのでしょうか。

A15−2 破産手続開始の申立後開始決定前に債務者が死亡した場合,裁判所は相続債権者,受遺者,相続人,相続財産管理人または相続財産の管理に必要な権利を有する遺言執行者の申立てにより,その債務者の相続財産について破産手続を続行する旨の決定をすることができる(破産法226条1項)ものとされています。
この申立ては,相続開始後1ヶ月以内にしなければならず(同条2項),期間内に続行の申立てがなかった場合には,その期間が経過したときに破産手続が終了するものとされ,債務者の相続財産について破産手続を行う必要がある場合には,再度破産手続開始の申立てをしなければならないことになります。
なお,開始決定後に債務者が死亡した場合には,その債務者の相続財産について破産手続が当然に続行される(破産法227条)ので,続行の申立てをする必要はありません。


Q15−3 私の友人は,個人で病院を経営していました。私はその友人に,事業資金として約1000万円を貸し付けていましたが,その友人は先月亡くなってしまい,病院の建物・施設などそれなりの資産はあるものの,病院の経営が苦しかったらしく各方面から財産以上の額の借金をしていたようです。
その友人の相続人は妻1人だけであり,その妻は限定承認をしたのですが,どうやら相続財産である病院を手放したくないらしく,いつまで経っても相続財産の整理手続をしてくれず,私に対しては900万円の債権放棄をしろなどと無茶なことを言ってきます。
私としては,900万円の債権放棄をするよりは破産手続きを取ってもらった方が多くの配当を受けられると思うので,相続財産管理人には破産手続を取ってほしいのですが,強制することはできないのでしょうか。たしか,旧破産法では相続財産管理人には破産申立ての義務があったと思うのですが,新破産法ではどうなのでしょうか?

A15−3 新破産法では,旧法と異なり相続財産管理人などに破産手続開始の申立義務はありませんが,そのように相続財産管理人が職務を懈怠している場合には,債権者自ら破産手続開始の申立てをすることによって対抗することができます。
なお,相続財産につき破産手続開始の決定があった場合,限定承認による相続財産の清算手続は中止されます(破産法228条)ので,相続財産の管理は裁判所から選任される破産管財人の手に移ることになります。


Q15−4 私は,生活苦で約600万円の借金を抱えるに至り,このたび自己破産の申立てをしました。ところが,私の父も多額の借金を抱え,自己破産の申立てをしようとしていたのですが,申立てをする直前に父は急死してしまいました。父には若干の財産も残っているのですが,今から相続放棄の手続きをすることはできるのでしょうか?

A15−4 破産手続の開始決定前であれば相続放棄の手続きも可能ですが,破産手続の開始決定後に破産者が単純承認または相続放棄の手続きをしても,法律上その効力は認められず,限定承認をしたものとして取り扱われます(破産法238条1項)。ただし,被相続人の債務超過が明らかであるような場合には,破産管財人が相続放棄の効力を認めることもあります(同条2項)。
どちらにせよ,自己破産した後の相続財産に関する手続きは破産管財人に委ねられるので,さほど心配する必要はありませんが,破産手続の開始決定前に未解決の相続問題がある場合には,まず間違いなく管財事件になってしまうので,相続放棄の手続きはできれば申立前,少なくとも開始決定前には済ませておいた方がよいでしょう。


Q15−5 私の父は,住宅を守るため裁判所に小規模個人再生の申立てをし,再生計画は認可されましたが,その3日後に交通事故で亡くなってしまいました。
父の個人再生は,父の高収入を前提としており住宅ローンなどもとても支払えないので,父の再生手続は中止にしてほしいと裁判所に申し入れましたが,裁判所からは「既に再生計画が認可されたので,廃止はできない。」と言われてしまいました。
再生計画に基づく支払いと住宅ローンの支払いは,父の相続人である私たちがしていかなければならないのでしょうか。

A15−5 個人再生手続は,再生計画の認可決定が確定することにより当然に終結してしまう(民事再生法233条)ので,認可後に再生手続が「廃止」されることはありません。
認可後に再生債務者が死亡した場合の取り扱いは,通常の相続と考え方は同じで,相続人は相続放棄をすれば再生計画に基づく支払いなどを免れることができますし,住宅を守りたいなどの理由で支払いを続けたい場合には,相続放棄をせずに支払いを続けることも可能です。


Q15−6 私の父は,事業の経営難で多額の借金を抱え,何とか自宅だけを守ろうとして住宅ローン条項付き個人再生の申立てをしていましたが,手続中に事故で亡くなってしまいました。自宅は手放したくないので,相続人が住宅ローンと再生計画に基づく支払いを継続するということで,父の個人再生手続を続行してもらうことはできないのでしょうか。

A15−6 個人再生手続は,再生債務者自身が支払いを続けることを前提とした手続きであるため,認可前に再生債務者が死亡した場合には,再生手続は廃止されることになり,続行は不可能と考えられます。














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